研究領域 | ヒッグス粒子発見後の素粒子物理学の新展開~LHCによる真空と時空構造の解明~ |
研究課題/領域番号 |
16K21730
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浅井 祥仁 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60282505)
|
研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2024-03-31
|
キーワード | 素粒子実験 / 素粒子論 / 加速器 |
研究実績の概要 |
LHCの第2期実験の全データの解析を強化するとともに、7月から始まった第3期実験で取得されたデータの解析も開始した。7月にはヒッグス粒子発見10周年を記念し、ヒッグス粒子の生成・崩壊に関するこれまでの測定結果を系統的にまとめた論文をNatureで発表した (https://www.nature.com/articles/s41586-022-04893-w)。生成プロセス、付随するジェット数、ヒッグス粒子の横運動量などでカテゴリ分けした断面積測定を通して、素粒子標準模型では説明できない現象の存在の示唆を期待したが、結果は標準模型を強く支持していることが分かった。第3期実験あるいはそれ以降の実験で得られる高統計データを用いて、ヒッグス粒子を通して真空・時空の謎に挑む。 これまで、ヒッグス粒子、言い換えると、この新しい真空状態が関係する新現象は何か? を国際活動支援班が中心となって、領域外の海外研究者と進めてきたが、新型コロナ感染症による移動の制限で、昨年度まではオンラインの研究交流が中心であった。今年度から徐々に状況が改善し、5月に松江で国際会議「Physics in LHC and Beyond」(https://indico.cern.ch/event/1102363/)をハイブリッド形式で実施した。80名の研究者が現地参加し、海外研究者も3名招聘することができ、新しい素粒子、真空、時空の議論、量子等の新しい技術に関する活発な議論を行った。また、今年度後半には、個別に海外招聘も実施し、前方検出器を使った新しい解析アプローチの研究を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大型国際計画は、国境なき研究者の移動が基本となっており、新型コロナ感染症の影響は大きかったが、今年度から徐々にその移動が再開された。CERN(スイス、ジュネーブ)では遅れていた第3期実験が7月から開始され、オペレーションや物理解析のため研究者を現地に長期派遣した。また、5月には松江で国際会議「Physics in LHC and Beyond」をハイブリッド形式で実施した。万全の感染予防対策の下、国内外から80名の研究者(海外招聘者は3名)が松江に集まり、様々な議論を対面で実施することができた。 物理解析研究は、第2期実験の全データを用いて研究を進めた。我々が発見したヒッグス粒子の質量は125 GeVであるが、ヒッグス粒子の生成はこの質量領域から外れた領域(Off-shell領域)でも理論的には可能である。今年度、このOff-shell領域でのヒッグス粒子生成を3.2σで観測した。また、この断面積と125 GeV付近でのヒッグス粒子の断面積との比較により崩壊幅を測定することができ、4.6 MeV(誤差は2.5 MeV程度)と素粒子標準模型と矛盾しない結果を得た。また、超対称性粒子などの新粒子・新現象の探索では、第2期実験の高統計のデータを活かし、生成断面積が小さいため観測が困難であった生成過程(Electroweakプロセス)に注目して研究を進めた。機械学習なども積極的に導入し、低運動量のレプトンの再構成・識別の改善を行い、発見感度を向上させた。また、ATLAS検出器の前後方に約200 m離れた位置に設置された前方検出器を用いて、これまでとは異なったアイデア、たとえば、LHCを光子コライダとして利用することで新粒子・新現象を探索する研究も推進した。これらについては、9月、3月に海外招聘を行い、研究議論やセミナーを開催した。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染症のため、現場での経験が十分に得られなかった若手研究者をCERNへ積極的に派遣し、第3期実験(2022-2025年)を推進する。第3期実験は、エネルギーが増強され、検出器が改良されるなど、大きなアップグレードがなされている。現地に研究者を送り実験再開(令和5年4月)をスムーズに行う。コロナ禍で構築したオンラインによる国内の滞在者が協力して行える体制も活用しながら、現地の研究者と力を合わせて進めていく。令和5年度からは新テラスケール研究会を国際化し、第3期実験や高輝度化されたLHCで期待される物理研究、特に真空、時空に関する研究に関して、実験・理論問わず、国内外の研究者と議論する計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国際活動支援班は、基金化されて運用を行っている。新型コロナウィルス感染症の影響はまだまだ大きく、今年度は国際会議「Physics in LHC and Beyond」(5月)を行う際、海外招聘を積極的に勧めたが、手続きの煩雑さなどから渡航が躊躇され、現地には3名しか招聘することができなかった。今年度後半には3名の研究者招聘を行い、結果として合計6名の海外招聘を行った。この数はコロナ以前とは比較にならないほど少数であり、コロナが収まりつつある状況にあっても想定していたほどの招聘を実施することは困難であった。
使用計画:2つの研究支援の柱がある。(1) 若手研究者の海外研究機関への長期滞在は、令和5年度はCERNに3-4名程度派遣し、第3期実験2年目の立ち上げを行う。その旅費が必要となる。(2) 国際化された新テラスケール研究会に海外の研究者を招聘するために、その旅費が必要となる。
|