研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
15H05821
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
郭 新宇 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10322273)
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研究分担者 |
松野 健 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (10209588)
張 勁 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (20301822)
市川 香 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (40263959)
中村 啓彦 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (50284914)
千手 智晴 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (60335982)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | トカラ海峡 / 黒潮 / 鉛直混合 / 現場観測 / 培養実験 |
研究実績の概要 |
黒潮の水温・塩分の鉛直構造の時空間的変化から、黒潮の内部における混合を推定することができる。今年度は、東シナ海陸棚縁辺部およびトカラ海峡における気象庁の定線PN線、TK線のデータを用いて、黒潮の塩分極小層付近における鉛直混合の季節変動を見積もり、春・夏に比較して、秋・冬に混合が強くなる傾向を見出した。 トカラ海峡での観測に基いた混合過程の研究からは、多くの島や海山のある海峡を黒潮が通過する際に強い鉛直混合が起こっていることを示す様々な証拠が得られ、前年度の観測結果の解析からは、海山を通過した黒潮の下流で、大きなシアとそれに伴った不安定を生じ、大きな鉛直混合が起こって、鉛直構造がその上流に比べて明瞭に変化していることが示された。この結果は簡単な鉛直一次元モデルによって再現され、海山近傍での強い混合が示唆された。海山周辺の乱流構造を明らかにするため、今年度実施された観測期間中に、海山付近を通過する黒潮に乗ってドリフトしながら乱流計測を繰り返すことにより、海山のすぐ下流で海山の深さ以深で強い混合が起こっているとともに、海山の下流では上流に比べて、水温・塩分の鉛直構造が大きく変わっていることが確認された。 さらに、黒潮の流軸と、それから少し離れた位置に係留したADCPによる流速の鉛直分布の時系列からは、黒潮の流軸付近で、より顕著な鉛直シアを持った流速分布が観測された。比較的鉛直波数の小さい、内部潮汐の時間スケールを持った変動とともに、鉛直高波数の流速変動も明瞭に観測された。またトカラ海峡での観測期間中に得られたSAR画像から、1から数km程度のスケールを持った濃淡の構造がみられ、ADCPによる流速構造と比較することでその関連が示唆された。 トカラ海峡での強い鉛直混合によって有光層に供給される硝酸塩の低次食物網への影響を評価するために、船上の培養実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2回目のかごしま丸の観測は計画通りで行われた。海山近傍での強い混合が観測された。さらに、係留ADCPデータと衛星SARデータとの比較も行い、内部波の面的な情報を得ることができた。船上培養実験では貴重なデータやサンプルを多数取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
トカラ海峡では、栄養塩の下層からの供給とその基礎生産および動物プランクトンへのつながりに関する観測を継続するとともに、29年度には、ルソン海峡における係留と乱流強度の観測を計画しており、黒潮源流域での内部波と鉛直混合が黒潮に及ぼす影響を評価するためのデータを取得する。また30年度以降には夏季(6月)にトカラ海峡での観測を計画し、鉛直混合過程の季節による相違を明らかにするための情報を得る。特に生物過程との関連においては、季節のよる背景の相違は大きな条件の相違となることが考えられ、これまで11月に実施してきたが、季節躍層の発達する夏季にトカラ海峡での混合過程の生物過程との関連を明らかにすることは、研究成果の普遍性のためにも、また素過程の役割を明確にするためにも大きな意味を持つと考えられる。
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