研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
15H05822
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
原田 尚美 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 研究開発センター長代理 (70344281)
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研究分担者 |
藤木 徹一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任技術研究員 (30598248)
相田 真希 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 技術主任 (90463091)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 海洋生態系 / セジメントトラップ係留系 / 乱流 / 栄養塩フラックス / 有機炭素フラックス |
研究実績の概要 |
本計画班では、生物地球化学データやサンプルを採取することができるセジメントトラップ係留系を観測の柱にしている。5日ごとの高い時間分解能で表層から水深150mまでの水温、塩分等の環境因子データ(物理データ)を取得し、10日ごとに採取される生物起源粒子を各種化学分析することで、生物生産量、低次生物群集変化を把握するとともに、環境因子データから推測される海洋内部の物理機構と生物生産の実態を把握することを目的としている。データから提示される物理・化学環境と生物生産との関係の仮説をモデルとの連携により検証し、短期から10年規模の長期にわたる海洋力学ー生物生産過程の解明を目指している。 平成28年度の主な成果は、A01-1班、A02-3班と一緒に北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸による西部北太平洋亜寒帯循環域航海に参加し、微量栄養塩として重要な鉄の制限海域である亜寒帯域の定点観測点St.K2にて、1)現場で生じている鉄の供給と植物プランクトンの有機物生産とがバランスしているのかどうか、また、2)鉄の供給があった場合に植物プランクトンの群集の応答にはどのような特徴があるのかを明らかにする観測を行った。St. K2のような鉄制限海域にて海洋表層の植物プランクトン群集は、溶存態の鉄が供給された場合、どのような応答をするのか種類ごとの特徴を捉える実験を行った結果、沿岸や湧昇域の高い栄養塩環境に多く生息する大型の羽状目珪藻Chaetoceros spp.や珪質鞭毛藻のDistephanus speculumが顕著に増殖することがわかった。一方、亜熱帯の定点観測点St.KEOで得られた成果として、昨年度に引き続き時系列セジメントトラップ観測データと米国のNOAA-PMELが設置している物理係留系のデータとの比較から生物生産とそれを支える物理過程について両者の関係を定量的に把握する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
亜寒帯域の観測定点St.K2並びに亜熱帯域の観測定点St.KEOにてセジメントトラップ係留系の回収と再設置を実施することができた。具体的には、亜寒帯域St.K2において2015年7月から10月と3ヶ月と短期間ではあるが、5日ごとの水温、塩分、クロロフィルa濃度、植物プランクトンの活性値を連続観測し、秋季の植物プランクトンブルームを捉えることに成功した。爆弾低気圧の通過により、残念ながら10月25日以降の昇降式ブイに搭載されていた各種センサーのデータは取れていないが、この3ヶ月のデータは北太平洋亜寒帯域では世界初のデータとなっている。また、St.KEOの成果について、2014年7月から2015年7月まで4800mの水深にセジメントトラップ係留系を設置し、生物起源粒子を採取するとともに、NOAAの気象・物理観測ブイで得られた海面高度や水温との比較を行った結果、係留期間中、鉛直混合を生じる機構のうち、台風と推測される低気圧擾乱(数日の鉛直混合)が3度生じており、中層から湧昇によって栄養塩をたっぷり含んだ水塊が有光層にもたらされ、基礎生産が促進されている様子が伺えた。また、湧昇によってもたらされる年間の栄養塩量から推定される植物プランクトンん生産量は、St. KEOで見積もられる新生産の8割に匹敵していることもわかり、低気圧性渦のような物理機構が亜熱帯の新生産の大部分を担っていることを定量的に示すことができた。以上の点から、観測の一部不具合はあるものの、すぐに所属機関で代替機を購入し、引き続き観測を継続することができている。
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今後の研究の推進方策 |
海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」や「新青丸」を用いて西部北太平洋亜寒帯域(St.K2)及び亜熱帯域(St.KEO)に設置されているセジメントトラップ係留系の回収、再設置を実施し、生物起源粒子を約10日ごとの頻度で採取する。亜寒帯域のセジメントトラップ係留系には、上層150mに植物プランクトン活性センサー(FRRF)、CTD、溶存酸素(DO)など各種センサーを搭載した水中自動昇降ブイウインチシステム、その下部にADCPを設置し、水温、塩分、DO、流向流速等の周辺環境データとともに植物プランクトンの生物量と光合成活性データを5日ごとに取得する。また、新たに開発しているグライダータイプのフローティングシステム(CTD,DO, FRRF搭載)やバイオセンサーを搭載したアルゴフロートをSt.K2の周辺に展開し、より広範囲なデータの同時取得を目指す。St.KEO係留系近傍に設置されている米国NOAAの気象学・海洋物理学表層観測ブイデータも利用し、生物活動との関連性の理解に務める。モデルに関しては、コミュニティ地球システムモデルをベースに海洋水温塩分観測値を与えたデータどうかシステムを開発し、過去50年間の気候値などどと比較しながらデータ同化実験の実施と検証を行う。高次生態系まで含めた食物網の記述については、鉄分布や北極海の気候値を現実に則し表現できるようモデルを改良していく。
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