計画研究
価値判断の神経回路を特定するため、価値判断課題を訓練したサルを対象に局所脳部位の神経細胞に人工受容体(DREADD)を導入することで、その活動を薬物(CNO)で一過性に抑制させることのできる化学遺伝学的手法(DREADD-CNO法)を用い、内側側頭葉の嗅周野と前頭眼窩皮質との神経連絡が価値判断評価に必須であることを明らかにした(Eldridgeら, 2016)。このDREADD-CNO法を中心とした手法を用い両側の前頭眼窩皮質の抑制を含む、複数の神経核や神経回路を抑制した際の価値判断に対する影響とその特異性を評価している。加えて、価値判断以外の情動反応への影響を特定するために、行動評価系の開発を開始した。またこれらと並行して、DREADD-CNO法による特定神経活動操作に伴うターゲット脳部位ならびに下流の神経活動・神経情報表現の変化をfMRIや電気生理学的手法を用いて抽出する試みを開始した。一方、特定情動反応に影響を与える質感属性を特定し、神経系への作用機序を明らかにするために、人間の可聴域上限をこえる超高周波によって、ヒトの音の感性的質感認知が顕著に向上する現象〈ハイパーソニック・エフェクト〉について、より強い効果をもたらす刺激属性を抽出し、ラットを用いた実験でその効果の検証を行なう。不快時には20kHz付近の帯域、快時には50kHz以上の帯域の鳴き声を発する齧歯類のUltrasonic Vocalization (USV)との共通性が注目される。そこで、まず鳴き声の50kHz以上の成分を抽出したものと、鳴き声の信号構造を持たない人工的に合成した様々な帯域の音響信号をラットに呈示して、側坐核のドーパミン遊離量を計測し比較することにより、信号構造と情動神経系活動との関係を明らかにするための実験を開始した。
2: おおむね順調に進展している
情動・価値判断の神経回路を特定するための化学遺伝学的手法が霊長類で適用可能であることを示し、この手法を用い前頭眼窩野と嗅周野との神経連絡が価値判断に必須であることを国際誌に発表した。また、特定情動反応に影響を与える質感属性を特定するための齧歯類をもちいた研究系を立ち上げ、ハイパーソニック・エフェクトとドーパミンとの関係を調べる実験が開始できた。
H28年度は霊長類で適用可能であることが確認できた化学遺伝学的手法をもちいて、質感認知から情動発現に至る神経回路を特定することをめざす。特に質感提示に対する情動反応を明らかにする行動評価系を開発する。一方、特定情動反応に影響を与える質感属性を特定するための齧歯類を用いた研究系により、ハイパーソニック・エフェクトと報酬系神経回路、とくにドーパミンとの関係を調べる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件)
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