計画研究
感性的質感認知における脳の基本的作動原理の一つとして、視覚に基づく価値判断の神経回路の特定を進めている。28年度は、OFCの神経投射を強く受ける吻内側尾状核(rmCD)に着目し、価値判断課題を訓練したサルを対象に化学遺伝学的手法を用い神経活動を一過性に抑制させることで価値判断に障害を引き起こすことを明らかにした(Nagaiら2016)。H27年度の結果とあわせ、視覚に基づく価値判断には高次視覚野→Rh→OFC→rmCDという神経連絡が必須の役割を果たすことが示唆された。さらに、抑制性DREADDを両側のOFCに導入したサルを作出し、活動抑制によって情動に関連する神経ネットワーク活動がどのように変化するかをfMRIにより調べる実験系を構築した。また情動性の異なる音声を呈示した際などにみられるサル情動反応の評価系の開発を開始した。一方、聴覚における環境情報の複雑性が、実験動物の寿命や自発活動に与える影響を特定するため、マウスを聴覚環境エンリッチメント条件と、通常騒音下で飼育する対照条件に分けて長期飼育した。その結果、聴覚環境エンリッチ条件のマウスで寿命が有意に延長し、自発活動量の増加が認められた。これらは聴覚的に多様な刺激を加えるという聴覚環境エンリッチメントが、生物の生存にポジティブな効果をもたらす可能性を示唆する。視覚においては一般的に明るく・輝きのある環境や刺激が好まれる。この神経基盤を明らかにするため、サイン波グレーティングの明・暗を変調した画像の検出感度を測定するヒト心理物理実験を行い、明・暗で異なる特性が観察された。次に、シーンの明るさへの生体応答として、赤、青の全画面刺激に対する瞳孔径の応答特性として計測し、自律神経系へ寄与を見積もることができた。以上の結果はON/OFF非対称の視覚現象の存在を示唆し、明るさ・輝きの選好性の背景となっている可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
化学遺伝学的操作法とPETイメージングの融合による新技術を開発し、サルにおける神経活動操作を再現性よく実施できることを示すとともに、この技術を利用して吻内側尾状核が価値判断に必須であることを明らかにした(Nat Commun誌に発表)。H27年度の成果と合わせ、視覚に基づく価値判断の神経回路の特定が順調に進んでいる。また、サル情動評価系の構築や脳計測の準備も並行して進めており、情動惹起の神経回路の探索も着手できた。加えて、情動反応形成に重要な質感刺激属性の特定については、聴覚における環境情報の複雑性と実験動物の寿命などとの関連を見出すとともに、視覚における明るさの選好性の脳メカニズムを示唆する、明暗の非対称な情報処理の一端が明らかとなった。
(1)感性的質感認知における情動・感性系の神経回路の特定強い情動反応を惹起する視覚・聴覚刺激に対するサルの情動性反応を再現性よく捉える評価系を確立するとともに、fMRIやECoG法による脳活動計測を進める。脳活動を指標として、様々な質感刺激を情動価によりカテゴリ化を試みる。最終的に、これらの脳活動や情動反応がOFCなど情動・価値判断に重要な領域の神経活動をDREADDにより操作することで、どのような影響が生じるかを特定することで、感性的質感認知における情動・感性系の神経回路とその仕組みを明らかにする。(2)特定情動反応に影響を与える質感属性の同定と、その神経系への作用機序聴覚においては、様々な帯域の音響信号をラットに呈示して、側坐核のドーパミン遊離量を計測し、信号構造と情動神経系活動との相関関係を明らかにすることで、特定の情動が生じる質感属性の共通点や一般原理を見出す。また、音響環境エンリッチメント条件においてマウスの超音波発声記録や行動バッテリーを実施し、音響環境が行動に及ぼす影響を客観的に明らかにする。また、DREADDを用いて情動神経系の活動を操作することによって音響環境エンリッチメント発現と情動神経系との関連を明らかにする。視覚においては高輝度・高コントラスト刺激に着目し、明るい環境を好む傾向が皮質経路による視覚認知行動なのか、視床での自律神経応答由来なのかを明らかにする。光刺激に対して瞳孔経の変化を測定することで自律神経応答を測定するとともに、瞳孔経反射の神経核である被蓋前域、さらに視交叉上核のニューロン応答を記録することで自律神経系に関わる視覚応答特性を明らかにする。並行して、外側膝状体、上丘からニューロン活動記録を行い、皮質視覚経路への応答と比較する。以上の結果から、光環境が霊長類に及ぼす行動の原理について明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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