計画研究
染色体高次構造形成及び制御において、コヒーシンとコヒーシンローダーの役割を明らかにするため、ヒト培養細胞においてこれらの因子をノックダウン(KD)してHi-C解析を行った。その結果、どちらのKD細胞でもトポロジカルドメイン(TAD)構造の大部分が消失していた。また、エンハンサーとプロモーター間の相互作用を解析したところ、コヒーシンとローダーのKDでは相互作用がそれぞれ86%と50%も失われた。一方で、発現変動遺伝子とあわせて解析を行ったところ、特に発現が上昇している遺伝子においてTAD境界をまたぐ異常なエンハンサー/プロモーター相互作用が新たに形成されていることが判明した。以上の結果、コヒーシンは巨大なドメイン構造から局所的なクロマチンループに至るまで、染色体高次構造形成において主要な役割を果たしており、これらの高次構造を介した正常な遺伝子発現制御にも寄与していると考えられた。昨年度に確立した新規の精子可溶化法(平野・大杉との共同研究)を用い、精子ヒストン局在を再解析した結果、①精子ヒストンの多くは非遺伝子領域に局在し、どの領域にも顕著な濃縮は認められないこと、②一方で一部の精子ヒストンはメチル化修飾を有し、転写開始点やリピート領域などに修飾特異的な濃縮を示すこと、③従来広く用いられていたMNase切断法は転写開始点のシグナルを増大するアーチファクトの原因となること、を見出した。また転写開始点に濃縮するヒストンは、N末端テイル部分が切断される可能性を見出し、MS解析によってその切断点を同定した。さらに精子ヒストンのChIP-seq法を確立したことから、加齢が精子ヒストンの局在に影響するか否かを検討した。その結果、加齢マウス精子で顕著に変化する複数のヒストン修飾を見出し、エピゲノム遺伝における父方加齢の影響を示唆する知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
Hi-C技術の導入に遅れを取ったが、コヒーシンの変異が原因で引き起こされる希少疾患について、エンハンサーとプロモーターのミスコネクションによる遺伝子の活性化という予期しなかった新たな知見を得た。また、精子のエピゲノム解析技術を班内共同研究により立脚し、加齢精子について予想外の新たな知見を得た。いずれも論文執筆中あるいは投稿中である。これらの理由により概ね順調に進展していると判断した。
コヒーシン病に類似の新たな希少疾患をいくつか単離できたため、その染色体高次構造の解析をすすめる。in vitroでのコヒーシンによる転写活性化のシステムも既に構築しているので、ゲノム情報とin vitro情報を統合し、コヒーシンによる転写制御の分子実態を明らかにする。また、加齢による精子エピゲノムへの影響については引き続き詳細に検討し、加齢精子による次世代への影響について分子レベルで明らかにする。
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Nat Commun.
巻: 1638 ページ: 1-16
doi: 10.1038/s41467-017-01807-7
Mol Cell.
巻: 68 ページ: 758-772
10.1016/j.molcel.2017.10.012
Nat Chem Biol.
巻: 13 ページ: 982-993
10.1038/nchembio.2436
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 114 ページ: 7671-7676
10.1073/pnas.1620208114
J Exp Med.
巻: 214 ページ: 1431-1452
10.1084/jem.20161517
Sci Rep.
巻: 7 ページ: 46228
10.1038/srep46228