本研究の目的は、この染色体不安定性の獲得過程に伴う染色体構造やその動態制御の病理的変化、そして染色体不安定性が誘導する染色体異数性ストレス応答を解明することである。令和元年度は、以下の結果が得られた。 1)セパレースの活性化プローブを用いた解析により、正常二倍体細胞では、短時間の爆発的に活性化するのに対して、がん細胞では、時期早尚な活性化に続き、緩徐な活性上昇が起きることを見出した。この活性化プロファイルの変化は染色体不安定性を誘導する(論文リバイス中)。 2)がん細胞は、M期チェックポイントの解除効率が低下することを見出していたが、その原因は、分裂中期に動原体に局在するべき脱リン酸化酵素PP1が不足するためであることを突き止めた。すなわち、中期から後期にかけてのM期チェックポイントとセパレースの制御異常という染色体不安定性の新たな説明を可能にした(論文リバイス中)。 3)染色体の高次構造制御を担うSMC2/4及びSMC5/6複合体を蛍光標識した細胞を用いてFRAP解析を行いクロマチンとの相互作用を解析したところ、DNA複製やDNA損傷によってDNAとの結合が安定化することが見出され、これらの過程に関与していることが示唆された。時期特異的なノックダウン実験により染色体不安定性との関連の解析を進めている。 4)急性期の染色体異数性ストレス応答関連因子として網羅的スクリーンで単離されたMis18複合体の特性解析を分裂酵母遺伝子破壊株セットを用いて進めた。その結果、Mis16タンパク質を伴わないMis18複合体が特異的に新規DNA領域でのセントロメア形成を促進していることを見出した。また染色体に普遍的な異数性ストレスは、染色体のサイズに加えてそのテロメア/サブテロメア構造に依存することを新たに見出した。それらは冗長的に働き、間期核での染色体収納様式の変化が原因に挙げられる。
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