計画研究
浅部スロー地震に関しては,日向灘に2017年に設置した海底地震・水圧計による観測の継続とデータベース整備等を実施した.南西諸島域の2箇所に広帯域地震計機動観測点を設置しデータ流通の準備を行うとともに,超低周波地震の検出や位置決定の有効性を確認した.琉球海溝で発生する超低周波地震の潮汐応答に地域性や季節変化が存在し,大気・海洋圧力が影響する可能性があること,深さ約20kmのプレート境界面で発生し,SSEや普通のプレート間地震とは相補的であることを明らかにした.日向灘域で発生した2010年の超低周波地震活動が消長を繰り返しながら数週間継続し,地球潮汐の1日の振幅差が示す約2週間周期の変動とよく対応し,2003・2015年の活動も同様であることを明らかにした.深部スロー地震に関しては,四国西部の微動が時速約100 kmもの高速度で移動し活動域のフロントの拡散的拡大を見出した.また,短期的SSEを伴う微動の輻射エネルギーと発生数に地域性が存在し,微動の伝播速度と輻射エネルギーの相関性から,強度が空間的に不均質な微動パッチが応力拡散により連鎖的に破壊するモデルで説明できることを示した.さらにマッチドフィルター法を用いて深部超低周波地震を検出し,豊後水道では2010年と2014年の長期的SSEに対応する活動増加,愛媛県西部では2014年以降の顕著な低下を捉えた.遠地地震の表面波によって動的に誘発された深部低周波微動の解析手法を改良し,従来できなかった微小な誘発微動も解析可能とした上でM8-9級の遠地地震について再解析し,微動の発生する断層の摩擦に関する物理パラメータを推定した.九州・四国の沖合で小繰り返し地震を同定し,各種スロー地震と比較した結果,プレート境界型地震発生域の深部で数年かけて北進した現象と浅部から深部にかけて約1ヶ月の短時間で移動した2種類の移動現象を捉えた.
1: 当初の計画以上に進展している
浅部スロー地震に関しては,当初計画にはなかった他研究プロジェクトとの連携が可能となり,本領域が日向灘に構築した海底地震水圧観測網内に,2018年3月に小スパン海底地震計アレイを設置した.島嶼部の広帯域地震臨時観測点については,設置が当初の予定通り完了し,データのメンバー間での共有準備も問題なく進んでいる.また,データ解析によって機動観測の有効性も確認されている.琉球海溝においては,超低周波地震に伴う低周波地震を利用することで,これまで困難であった(超)低周波地震の空間分布を詳細に把握することができ,様々な地震活動およびプレートに関する情報と比較できるようになった.さらに琉球海溝の中での潮汐応答の空間変化と時間変化を検出することができ,超低周波地震の発生位置が特定されることで正確な潮汐応答計算が可能になった.南海トラフ西部域の浅部超低周波地震活動の地球潮汐応答解析についても,新たに2週間周期の潮汐成分に対応する活動の変調を確認できた.深部スロー地震に関しては,遠地地震波による動的誘発微動の検出と解析を予定通り開始し,予想以上の高分解能で極微小シグナルへの解析にも成功した.四国西部における陸域超稠密短周期地震計アレイ観測については,約半年間にわたる連続波形記録を取得するための装置改良を当初の計画以上に進めた.また,四国西部において時速約100 kmもの超高速度の拡散的移動現象の発見に成功した.さらに,本領域が構築したスロー地震データベースから公開されるデータを用いて微動活動の新たな特徴を見出し,それから推測した微動パッチ強度の空間的不均質性が微動域周辺の流体分布と整合的である,という融合的成果を得ることに成功した.繰り返し地震については,九州・四国沖での新たなカタログの構築を行い,既存のスロー地震カタログと合わせ2種類のスロースリップの移動現象の発見に成功した.
浅部スロー地震については,日向灘に初年度設置した海底観測機材の回収・再設置を2018年夏に実施し,回収した第1期観測データに含まれる低周波微動や超低周波地震の詳細な解析を進める.また,第2期観測を開始する.島嶼部での広帯域地震観測については,2018年3月より日向灘から南西諸島北部域で地震・超低周波地震活動が捉えられており,それらの記録から短期的スロースリップイベントが周辺の地震・超低周波地震活動を支配する様子を明らかにする.また,メンバー間での準リアルタイムでのデータ共有にも取り組む.南西琉球海溝での超低周波地震の解析を台湾の広帯域地震計波形記録を含めて実施し,また琉球海溝各地での潮汐応答の長期的時間変化の解析を進め,さらに低周波地震を検出し,遠地地震による誘発低周波地震の解析事例を大幅に増やすことで,結果に現れる誤差の軽減を図る.南海トラフ域での地球潮汐応答については,深部で発生する低周波微動や超低周波地震に対象を広げ,それらの結果を周辺の他のスロー地震現象と比較し,相互作用の観点から整理することにより,地球潮汐の発生様式,特性を明らかにすることを目指す.深部スロー地震については,遠地地震波により誘発された微動の検出と解析を過去約10年間の記録に対して順次行う.広帯域地震観測については機動観測点の設置準備を進め,陸域超稠密短周期地震計アレイ観測については,地震計アレイの設置計画の検討や約半年間にわたる連続波形記録を取得するための装置改良を継続して行う.繰り返し地震については,琉球弧での繰り返し地震の同定を行い,カタログを構築する.また,スロースリップ・超低周波地震・低周波微動・通常の地震の間の相互作用をさらにいろいろな観点から検討し,その関連性を明らかにする.
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 2件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (55件) (うち国際学会 40件、 招待講演 6件) 備考 (4件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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