計画研究
平成28年度に収集した衝突エネルギー13TeV,36/fbのデータ解析を多チャンネルに渡り行った。一部の解析では29年度データも追加して80/fbの解析に着手した。本計画研究では5つの成果が得られた。(1)グルイーノ等を生成する強い相互作用による超対称性粒子生成チャンネルでの探索を引き続き進めた。グルイーノ、スカラー・トップそれぞれの質量下限2.03TeV,0.94TeVを得た。(2)電弱生成などの低断面積チャンネル等,データ量の増加に伴い有効となるチャンネルをレプトン数,中間の粒子種によりカテゴリー分けして系統的な探索を行った。2-3個の荷電レプトンと消失エネルギーを要求し,信号感度を高める事象再構成法を試みた解析において,3シグマの超過がみられた。電弱超対称性粒子については0.6TeVの質量下限を得ている。(3)Rパリティ非保存やRハドロン超対称性モデルを用いて,多数ジェットや準安定グルイーノ生成などの解析を進めた。荷電長寿命粒子が検出器内を低速でイオン化する模型の探索において,2.4シグマの超過がみられた。(4)LHC高輝度化に向けビーム分離用大口径超伝導双極磁石の2m長モデル磁石の開発を進めている。放射線(40MGy)並びに入熱量(3mW/cm3)の厳しい仕様を満たす必要がある。試作・試験した1号機を解体しコイル予備圧縮応力を100MPaまで増大させモデル1b号機として再試験を行なった。通電性能が劇的に改善され,合格基準を上回る13.55kAの励磁を実証できた。現在磁石断面を一新した電磁設計のもとモデル磁石2号機の試作を進めている。(5)次世代エネルギーフロンティア加速器に向けて,Nb3Sn超伝導線材の開発を開始した。従来の国内記録を大幅に上回る,外部磁界16Tにおける臨界電流密度1090A/mm2を達成することができた。
2: おおむね順調に進展している
超対称性粒子は発見されていないが,各種探索チャンネルで厳しい質量下限等の制限を課す成果をあげている。精度を向上のためにデータ量の増加を必要としていた電弱超対称性粒子生成に関しても本格的に探索を進めることが可能となってきた。同様にデータの統計量を要求する質量の縮退した領域の探索など,暗黒物質候補を説明する可能性の高いパラメータ領域においてもより強い制限をかけることができるようになってきた。概略でも報告したように,信号探索感度を高めるため新たな解析手法を導入した幾つかの解析では2-3シグマの超過がみられており,統計量と共に解析技術の向上がこれらの兆候に寄与している。実験が行われているCERNに多数の若手研究者・大学院生を長期派遣して現地での研究体制を整えている。国際研究グループの中で活動し,何名かは解析責任者に就任するなど,国際協力の中核となり研究を進めている。高輝度化アップグレードに向けた超伝導磁石の開発は計画通りに進んでいる。また、高臨界電流密度Nb3Sn超伝導線材の開発も順調に進んでいる。
(1) 2017年度までに得られた80/fbのデータ量を用いた解析を推進する。特に,2-3シグマの超過が見られたチャンネルを中心に解析を進め,高統計でそれらの超過が新物理由来であるかどうかを確認する。データ量の増加に伴い重要となる,電弱生成など低断面積の超対称性生成プロセスを探索の中心に据える。また,これまでの単純な超対称性模型に従った解析方針から,より複雑な模型を扱うものに発展させ,高統計を有効に用いることでカテゴリー分けした解析を推進し各チャンネルでの感度を向上させる。(2) 超対称性が検出上の理由から「隠れている」可能性を検討し,質量の縮退を仮定する模型や長寿命粒子の探索モード等幅広く探索チャンネルをカバーする。一部の解析では導入されている,機械学習を取り入れた事象選別手法を超対称性粒子探索へ広範囲に適用し,信号探索の感度を向上させる。(3) 2018年度には2mモデル磁石2号機を完成させ,磁石性能評価を行う。引き続き2mモデル磁石3号機を試作し,性能の再現性を検証する。2019年度からは,実機長実証機(プロトタイプ)の製造を開始する。並行して,Nb3Sn超伝導線材の開発を進め,さらなる高性能化を図る。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (23件) (うち国際共著 22件、 査読あり 23件、 オープンアクセス 23件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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