研究領域 | ヒッグス粒子発見後の素粒子物理学の新展開~LHCによる真空と時空構造の解明~ |
研究課題/領域番号 |
16H06489
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
陣内 修 東京工業大学, 理学院, 准教授 (50360566)
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研究分担者 |
中本 建志 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 教授 (20290851)
浅井 祥仁 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60282505)
田中 純一 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 教授 (80376699)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | LHC加速器 / ATLAS検出器 / 超対称性粒子探索 / 余剰次元探索 / LHC高輝度化アップグレード / ビーム分離用大口径超伝導双極磁石 |
研究実績の概要 |
2018年度に完了したLHC Run-2の全データ(約140/fb)を用いた解析を行った。一部の優先度が高いチャンネルでは前年度に解析を緊急に行い、予備結果という形で公表を行っていたが、本年度はそれらの中心となるチャンネル及びその他のチャンネルも含めて時間をかけて精査した。本計画研究では主に5つの結果が得られた。 (1) 電弱生成チャンネルを崩壊の中間粒子別にカテゴリー分けし系統的な探索を継続的に行った。最軽量、2番目に軽いゲージーノ間の質量差に応じて解析を分けた。差がW,Zを生成する100GeV程度で複数レプトン(2本、3本)に崩壊するチャンネル、差が数GeVのために低運動量のレプトンへ崩壊し,暗黒物質模型とも相性のよい縮退チャンネル、ヒッグス粒子が中間生成されるWhチャンネルを対象とした。 (2) 強い相互作用による生成チャンネルでの探索に関しては引き続き、大統計を用いてスカラートップ・ボトムペア生成による様々な崩壊分岐を考慮した解析を行った。スカラーボトムに対して1.5TeVの質量下限値を得た。 (3) R-パリティ非保存のために長寿命になり内部飛跡検出器内で最軽量ゲージーノが崩壊する模型の探索を行った。 (4) LHC高輝度化に向けビーム分離用大口径超伝導双極磁石の2m長モデル磁石3号機を開発した。1.9Kでの冷却励磁試験では、合格基準を上回る13.2kAまで到達することができ、モデル2号機と同様の良好なトレーニング性能を確認できた。また磁場特性についても、高い再現性を確認できた。以上の成果をもとに、7m実機長実証機磁石の製造を開始した。 (5) 次世代エネルギーフロンティア加速器に向けた高磁場超伝導磁石の基礎開発として、高温超伝導線材を用いたモデルコイルの開発を開始した。特に、ビーム衝突点などの非常に高い放射線環境での運用を想定し、無機絶縁技術の開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Run-2最終年である2018年度のデータ収集完了から1年が経過し、品質管理が整ったRun-2全データを用いた様々な解析を進めることが可能となった。超対称性粒子存在の強い兆候は依然として見られていないが、これまでにLHCで得られてきた質量下限等の制限を更新する新たな厳しい結果を得ている。統計量の増加に伴い、解析の軸足は電弱生成の超対称性粒子探索に移動し、論文として出版された結果の大きな割合を占めるようになった。終状態のシグニチャー・パターンや、質量の縮退度で分類して、系統的な探索を行うことが可能となってきている。強い相互作用による生成チャンネルではより詳細な分類を扱うように、また長寿命粒子探索に関しても引き続き系統立てた探索を進めている。 本年度前半はCERNに多数の若手研究者・大学院生を長期派遣し、現地における国際協力研究へ主導的に参加してもらっていた。しかし2020年2月以降新型コロナウィルスの影響で渡航が困難となりオンライン上だけの議論に切り替わったため、解析に必要となる細かな議論を行う場が十分に確保できていない。 高輝度化アップグレード向け超伝導磁石では2mモデル磁石開発に成功し、7m実機長実証機の製造を開始した。また次世代エネルギーフロンティア加速器に向けて、高臨界電流密度Nb3Sn超伝導線材や高温超伝導コイルの開発が順調に進んでいる。並行して、磁石の電気絶縁構造材料となる新開発の耐放射線ガラス繊維強化プラスチックのガンマ照射試験を行い、十分な耐放射線性能を有することを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
以下3点を中心に進めていく。 (1) Run-2全データ(約140/fb)を用いた解析を更に推進する。Run-1もしくはRun-2初期データで見られた2-3シグマの超過チャンネルを中心に、統計量の増強ならびに探索感度や精度を向上させる手法を導入する。データの高統計化に伴いこれまで以上に各生成モードにおいてカテゴリー分けを強化,系統化する。一部の解析では導入済みの機械学習等新手法を取り入れた事象選別を更に多くのチャンネルに導入して超対称性粒子探索の感度向上を目指す。 (2) 電弱超対称性粒子探索を基本軸としながらも,強い相互作用によるグルイーノ,スカラークォーク対生成のチャンネルも引き続き進める。特にb-jetを終状態に多数含むものや,検出器中心からずれた崩壊点を生む長寿命粒子を含むものなど特殊なチャンネルについての探索を進める。 (3) 2020年度には7m実機長実証機の設計・製造を進める。2021年度には実証機の冷却励磁試験を行い、性能を評価する。以上の結果をもとに、実機1号機の製造に着手する。一方、Nb3Sn超伝導線材開発では、さらなる高性能化(臨界電流密度の向上)を図る。また高温超伝導コイルの試作を進める。 新型コロナ感染予防措置による渡航自粛が引き続く長期化することが想定されるため,オンラインでの意見・情報交換が主な手段となる。そのような環境において最大限のアウトプットを得るための方法,手段を確立し,年間の活動に取り入れる。
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