研究領域 | ヒッグス粒子発見後の素粒子物理学の新展開~LHCによる真空と時空構造の解明~ |
研究課題/領域番号 |
16H06492
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
久野 純治 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 教授 (60300670)
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研究分担者 |
兼村 晋哉 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10362609)
野尻 美保子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (30222201)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 電弱対称性の破れ / ヒッグス粒子 / 世代構造 / 標準模型を超える物理 / LHC |
研究実績の概要 |
HL-LHCでは統計量の増大はするがエネルギーは上がらないため、まれなプロセスの分布や選別方法についてより精密な理解が必要である。バックグラウンドとなるQCD ジェットから高エネルギーのトップクオークやヒッグス粒子を選別する方法(ジェット分類)について詳細な理解を行う方法を野尻達は検討した。特に、深層学習は新手法であり、以前のBDT などの選別にくらべて劇的な成果をあげるが特徴量が明らかになっていなかったため、特徴量を明らかにし、より少ない入力で高速かつ多くの場合に対応できるモデルの開発を行った。 兼村達は、ヒッグスセクターの構造を絞り込む研究として、ヒッグスポテンシャルのCPの破れを調べ、各種実験の制限の下でヒッグス結合のずれを研究した。電弱バリオン数生成で生ずる重力波のスペクトルと将来加速器実験の相乗効果で模型を検証できることを示した。331模型を元にニュートリノ質量と暗黒物質も説明する新模型を構築し現象論を研究した。ヒッグス精密計算の系統的研究では、昨年度のH-COUPを拡張し電弱・QCD・QED補正を全て取り込んだ崩壊確率の計算を完成した。精密測定でヒッグスの構造を探る上で重要な研究である。LHCでの新粒子直接探索として、ヒッグスセクターの大局対称性の破れに応じて発生する同符号荷電ヒッグス対生成を初めて解析した。hhh結合の2ループ計算を拡張ヒッグス模型で実施した。 久野達はゲージヒッグス統一模型における量子補正によって導かれるヒッグスポテンシャルの有限性を議論し、ゲージ群が非可換群である場合でも2ループで有限であることを示した。暗黒物質粒子が標準模型粒子と擬スカラー粒子の媒介を通して相互作用をする模型は直接探索実験の制限を説明できる。久野達は、将来の暗黒物質直接探索の感度でこの模型が検証できるかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野尻達は、深層学習によるジェットの分類を詳細に調べ、CNN を利用したジェットイメージによるヒッグスジェットの同定がどのような物理的な特徴を捉えることによって行われているかを明らかにした。ジェットとヒッグスジェットの分類に効くのは第一には2点のエネルギー相関であり、ジェットイメージに頼らず20ほどのインプットで十分に表現可能であることを示した。このような量はIRCsafe であることが知られているため理論との比較の点でも好ましい性質を持つ。さらに相対的にソフトな分布がどのように分類に寄与しているかを調べジェットの外側にあるアクティビティが重要であることを線形化されたネットワークで示した。これにより2点関数だけを用いてCNN とほぼ同等の検出効率をもつモデルを構築することができた。ヒッグス機構の検証に関して、 兼村は2019年度は研究が飛躍的に進捗し、ほぼ計画どおりの成果を出すことができた。研究成果のうち、多くは論文として出版しているか投稿中である。また、さまざまな国内学会、国際会議で共同研究者らがこれらの成果に関する研究発表を行なった。 久野達はゲージヒッグス統一模型のスカラーポテンシャルの有限性について2ループレベルで完成した。さらに、ゲージヒッグス統一模型がそれ自体が繰り込み不可能な理論であることから、ヒッグスポテンシャrへのより高次補正の寄与が発散していることの示唆を与えた。また、久野達は暗黒物質粒子が標準模型粒子と擬スカラー粒子の媒介を通して相互作用をする模型の現象論的研究はほぼ完成をした。
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今後の研究の推進方策 |
野尻達はまれなプロセスの分布や選別方法についてより精密な理解のため次の通り考える。先行研究では、エネルギー相関に加えて粒子数などsoft infrared singularity に影響を受け、非摂動的な量もジェットの分類に効果的であることが知られている。2点相関に加えてソフトなアクティビテイが分類にどのように寄与するかを明らかにする。ソフトな粒子の分布を幾何学的に捉えることで解析を行う。幾何学的情報は宇宙の大規模構造の解析に利用されるミンコフスキー関数を利用する。また、このようなソフトな分布は、理論的に予言することが難しことが指摘されているが、データを使うことで補正する方法を模索する。 兼村達は2019年度の研究を発展させ拡張ヒッグスセクターにおけるCPの破れの加速器実験での検証可能性、現実的な電弱バリオン数生成の模型の構築とその現象論的研究を行う。また、拡張ヒッグス模型がどのような大局対称性を持ちえて、それぞれについて高エネルギー領域に現れるどのような新物理の方向性と関係しているかを系統的に調べる。H-COUPプロジェクトに関しては、125GeV質量のヒッグス粒子の生成、及び付加的なヒッグス場の崩壊現象の精密計算を推し進め、H-COUPver. 3 を完成させてリリースする。また拡張ヒッグス模型に現れる重いヒッグス粒子の結合に関するNLO計算にも取り組む。これらの研究活動に加えて、新ヒッグス勉強会を継続的に実施し、当該領域の若手研究者や学生の議論の場を提供する。 久野達は、高次補正を含めてのゲージヒッグス統一模型のスカラーポテンシャルの有限性を明らかにする。また、LHCなどの制限を逃れる暗黒物質模型として電弱相互作用をする暗黒物質に着目し、模型構築を行う。余剰次元模型などは電弱相互作用をするスピン1の暗黒物質を予言しており、より簡単な繰り込み可能な模型を構築する。
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