研究領域 | ヒッグス粒子発見後の素粒子物理学の新展開~LHCによる真空と時空構造の解明~ |
研究課題/領域番号 |
16H06494
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石野 雅也 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 教授 (30334238)
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研究分担者 |
寄田 浩平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60530590)
南條 創 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (40419445)
隅田 土詞 京都大学, 理学研究科, 助教 (80624543)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 新重粒子探索 / ウィークボソンの同定 / 大半径ジェット / 飛跡トリガー |
研究実績の概要 |
「新重粒子探索」と「高速飛跡トラックトリガーの試運転」の2本柱で研究を進めた.
ウィークボソンの散乱測定(Vector Boson Scattering)の実行性を検証した.本研究では現在まで未発見の新重粒子を探索しており,特に2つのウィークボソン対に崩壊するモードに着目してきた.探索の対象としている新粒子の質量は2~3 TeVと大きく,崩壊したボソンは高い運動量を持つ.強くブーストされたボソンが2つのクォークジェットに崩壊した際,2つのジェットはマージされて1つの大きなジェットを構成する.今まで探索されていない領域の重粒子を探索するために生じる新たな特徴を考慮したウィークボソンの同定方法を確立する必要があり,これについての基礎研究を進めた.また,縦横偏極度を測定するのための基礎研究もおこなった.
高速飛跡トラックトリガーについては飛跡の検出感度を更に向上させるため,これまでより短い飛跡を再構成するための原理・実効性の検証をおこなった.具体的には,衝突点とピクセル検出器2層,あるいは,ピクセル検出器3層という,より少ない情報で飛跡を再構成するアルゴリズムの開発である.もう1つの柱である高速飛跡再構成システム(FTK)のコミッショニングも大きく進展させた.システムの最上流で,ピクセル検出器とシリコンストリップ検出器から40MHzで送信されるヒット情報を受信し,クラスタ化する機能をもつ電子回路をアトラス実験のシステムに組み込んで,試運転を開始した.このハードウエアの導入作業,動作試験,これらをコントロールするソフトウエアの実装に加え,飛跡を発見するための参照トラックパターンの生成・各種キャリブレーション,ピクセル検出器の情報をクラスタ化するためのアルゴリズムの最適化をおこない,飛跡再構成の性能評価をおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LHC加速器のビームエネルギーが13TeVにあがった最初の年(2015)は,新しい運転条件における加速器の調整のために取得できたデータが極めて少なかったが,2016, 2017年は適切な加速器の運転状況がすぐにみつかり,新重粒子探索に使えるデータを大量に取得することができた.前年度までは極めて限られた新粒子の崩壊モード(2本のレプトン対への崩壊等,崩壊後の終状態に検知しやすい粒子のみが少数存在するケース)での探索しかできなかったが,今年度からは新粒子が2つのウィークボソンに崩壊する,より興味深い崩壊モードについても探索を開始することができた.そして,それらの結果を論文として公表することができた.JHEP03(2018)042では,ウィークボソン対に崩壊する新粒子について,そのスピンが0,1,2の場合に分けて解析を最適化して慎重に新粒子探索をおこなったが,すべての場合で素粒子の標準模型の予言と矛盾しない結果を得た. また,高い質量の新粒子がウィークボソン対に崩壊した場合,強くブーストされて最終的に発生する複数のジェットが1つの大きなジェットに見えてしまうが,これを正しく取り扱うための手法の開発に見通しがつきつつあり,2017年度に国際会議でその成果を発表することができた(ACAT2017). 新たな飛跡トリガーの開発については,基本的なアルゴリズムのデザインが完了し,より特殊な物理モデルの探索に要求される短距離飛跡の同定など,応用的な仕様に適応するための研究が始まっている.これらを可能にすることで,多様な物理に感度をもつトリガーシステムが構築できる.また,開発中のトリガーシステムのプロトタイプとなるFTKトリガーシステムのコミッショニングも進んでおり,我々の開発したシステム最上流にあるハードウエアは実データの受け取り,処理を始めている.
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今後の研究の推進方策 |
新重粒子探索については、LHC Run-2の期間に取得したすべてのデータ(160 /fb)を使って新重粒子の発見に挑戦する.新粒子がウィークボソン対に崩壊するモードについては,今後更にブーストジェットの処理方法を最適化しながら,ボソン同定効率に関する性能をさらに向上させていく.また,その際に開発した技術を応用することで,例えば新粒子がトップ・クォーク対への崩壊等にも、その解析対象を広げていく.
飛跡トリガーの開発においては、そのプロトタイプであるところのFTKシステムのコミッショニングを更に進めることで,本研究で開発中の大規模飛跡トリガーシステムを構築するための経験値を積みあげる.システムの上流部については,実際のデータを使ったデバッグ,コミッショニングが進みつつあるが,これをシステムの下流部に延長して,全体が安定して動作するように仕上げていく.また,飛跡トリガーが参照する飛跡データバンクの作成は,その性能を決定する重要な要素であるが,これを今まで以上にチューニングして実際の検出器の動作状況を反映したものにすることで,トラッ ク発見性能の向上,運動量分解能の向上を目ざす.またその経験にもとづき,次世代飛跡トリガーシステムの仕様に反映させていく.
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