研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06520
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺西 利治 京都大学, 化学研究所, 教授 (50262598)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | ナノ材料 / アシンメトリー / イオン結晶 / キラル物性 / 不斉反応 |
研究実績の概要 |
ポルフィリン誘導体が平面配位したAuナノ結晶は、表面積対体積比が大きいために有機配位子によって量子化された電子構造が摂動を受けやすく、その触媒活性が大きく影響を受ける可能性がある。そこで平成29年度は、電気化学水素発生反応(HER)におけるAuナノ結晶の触媒活性に及ぼすポルフィリン誘導体の配位子効果を系統的に検討した。電気化学的HER において、-0.4V vs RHEにおける1.3 nm ポルフィリン誘導体保護Auナノ結晶の電流密度がフェニルエタンチオール保護Auナノ結晶の電流密度より460%高いことが分かった。XPS分析により、ポルフィリンのAu表面への接近がポルフィリンからAuコアへの電荷移動を誘起し、その結果HER活性が増強されることが明らかとなった。この成果は当初の予定にない新たな知見である。 次に、空間電荷分離の高効率化による水分解酸素発生効率向上を目的に、酸素生成用助触媒として活性の高いMn3O4ナノ結晶へのCoドープ効果について検討した。まず、BiVO4光電極上にMnO、Co0.4Mn0.6O、Coナノ結晶を滴下・スピンコートし、400 °Cで3 h焼成処理を行い、配位子の除去とスピネル(CoxMn3-xO4)への構造相転移を行った。光電流値は、Co3O4 > Co1.2Mn1.8O4 > Mn3O4 > bareの順であり、それぞれ単独で電極触媒としたときの酸素生成活性と一致した。Mn3O4とCo1.2Mn1.8O4のフラットバンドポテンシャル(Efb)がほぼ同等であること、またCo3O4がそれらに比べて貴なEfbをもつことは、Mullikenの電気陰性度に基づく理論値と一致した。このことから、Co3O4がCo1.2Mn1.8O4、Mn3O4に比べて高いホール移動効果を示したのは、ナノ結晶表面の酸素生成過電圧が小さいことに加えて、n型半導体光触媒とのp-n接合において空乏層がより厚く、より強い内部電場は発生するために光触媒からのホール移動が促進されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、アシンメトリー無機ナノ結晶構造体構築のための構造単位として合成したポルフィリン誘導逮捕後Auナノ結晶において、特異触媒特性を実証できた。また、新しい無機物質を用い、ナノ結晶集積体における指向性キャリア移動を達成し、水分解反応高率の向上に貢献できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、新規なアシンメトリー無機ナノ結晶構造体として、光吸収物質に種類・サイズ・結晶構造を系統的に変化させた半導体ナノ結晶(CdE, PbE : E = S, Se, Te)ばかりでなく、局在表面プラズモン共鳴に基づき近赤外光のみを吸収するヘビードープ半導体ナノ結晶(p型:CuxSなど、n型:ITOなど)も用いる。また、平成29年度に達成できなかったキラル無機ナノ結晶に関し、熱力学的安定構造である正二十面体Au13ナノ結晶を基軸に、貴金属元素にヘリカルに置換されたAu9M4ナノ結晶の合成を試みる。
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