計画研究
ポルフィリン誘導体が平面配位した無機ナノ結晶は、表面積対体積比が大きいために有機配位子によって量子化された電子構造が摂動を受けやすく、その触媒活性や光学特性が大きく影響を受ける可能性がある。そこで平成30年度は、集積非対称ナノ結晶の構成要素となる粒径2 nm以下の半導体ナノ結晶(CdS、CdTe)の合成を行った。水溶性配位子存在下での反応により、水溶性微細半導体ナノ結晶の合成に成功し、そのポリアミドゲル電気泳動による分離により、構成原子数の揃った単一成分半導体ナノ結晶が得られた可能性が高い。次に、空間電荷分離の高効率化による近赤外光誘起水素発生効率向上を目的に、近赤外領域に局在表面プラズモン共鳴(LSPR)吸収のあるヘビードープ半導体ナノ結晶(p-Cu2-xS、n-ITO)に電荷受容相を非対称に接合した種々のヘテロ構造ナノ結晶を合成した。CuS/CdSヘテロ構造ナノ結晶では、CuS相の1000 nmでLSPRを励起することで、トラップを介したCdS価電子帯へのホール移動に世界で初めて成功した。電荷分離寿命は9.6 μsと長く、1000 nmにおける量子収率は19%に達した。さらに長波長領域にLSPR吸収をもつCu7S4ナノ結晶にCdS相を非対称に接合したヘテロ構造ナノ粒子では、p-n接合に起因する電荷分離寿命が>273 μsと極めて長くなり、1100 nmにおける水素生成量子効率は3.3%に達した(世界最高値)。一方、ITO/SnO2ヘテロ構造ナノ粒子においても、ITO相の近赤外LSPR励起による長い電荷分離寿命と高い量子収率を達成しており、無色透明太陽電池への展開が期待されている。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に従い、アシンメトリー無機ナノ結晶構造体構築のための構造単位として合成した微細半導体ナノ結晶の合成に成功した。また、近赤外領域にLSPR吸収をもつヘビードープ半導体ナノ結晶に半導体相を非対称に接合した種々のヘテロ構造ナノ結晶を合成し、長寿命電荷分離と近赤外光誘起水素発生効率向上を達成した。
今後は、1~2 nmのAuナノ結晶と半導体ナノ結晶からなる集積非対称ナノ結晶を構築し、ポルフィリン-ナノ結晶間相互作用を利用した触媒能評価を行う。また、キラル磁性発現に向けた、Auクラスターへの強磁性元素の導入を開始する。一方、無機結晶相が直接接合したヘテロ構造ナノ結晶においては、ナノ結晶表面のエピタキシャル成長・イオン交換を利用し、キャリアがナノ結晶間をなめらかに移動できるポテンシャル階段を構築し、さらなる高効率キャリア移動系の構築を図る。
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