計画研究
ヒト細胞には、主に増殖因子によって活性化され細胞増殖に作用するERK経路と、様々な環境ストレスに応答して活性化され、細胞死やサイトカイン産生などに代表される細胞のストレス応答を担うp38/JNK経路という、複数のMAPK経路が存在する。細胞運命を決定して、生体の恒常性を維持するこれらMAPK経路の制御異常が、癌、神経変性疾患、自己免疫疾患、糖尿病などの難治性疾患の発症に密接に関与することが明らかにされている。しかしながら、MAPK経路の活性制御機構や疾患における制御異常の詳細には、未だ不明な点が多く残されており、その解明は疾病克服の観点からも重要であると思われる。本研究では、MAPKシグナル伝達経路を介した生命機能制御機構とその破綻がもたらす疾患発症機構の全容解明を目指して、数理解析の礎となる基盤データの取得を目的にMAPK関連分子のマルチオミクス解析を実施し、以下の結果を得た。1)ストレス応答MAPK(p38/JNK)経路のシグナル伝達に関与する複数の新規分子を同定し、これらの分子が、ストレスに対する様々な生体応答(アポトーシス、炎症性サイトカイン産生、細胞周期制御、中心体複製制御など)の調節に重要な役割を果たしていることを見出した。2)MAPK経路の活性化に伴って発現量が変化する分子のオミクス解析を実施し、複数の新規分子を同定することに成功した。3)ストレス応答MAPK経路の活性調節に関わる細胞質内構造体「ストレス顆粒」構成分子の探索を行い、様々なシグナル伝達分子が、ストレス刺激依存的に顆粒内に取り込まれることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
上述の様にマルチオミクス解析を通して多数の知見が得られており、またMAPKシグナル伝達やストレス顆粒形成を介した細胞応答の制御に寄与する複数の新規遺伝子を同定することにも成功した。現在、これらの分子の機能解析を進めており、これまでに幾つかの有望な結果が得られている。
上述の研究によって得られた知見を統合して、MAPK情報伝達ネットワークの数理解析を実施し、その時空間制御と生物学的アウトプット(増殖/死/免疫等)の調節機構を明らかにする。また、理論と実験を融合した研究の推進により、生体応答を高精度に予測し、細胞機能制御や疾患治療の鍵となる重要分子を抽出する基盤技術を確立する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 4件、 招待講演 9件) 備考 (1件)
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