研究領域 | 数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H06574
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武川 睦寛 東京大学, 医科学研究所, 教授 (30322332)
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研究分担者 |
上野 匡 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (60462660)
石谷 隆一郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任教授 (90361568)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | MAPキナーゼ / シグナル伝達 / ERK / p38 / JNK / ストレス応答 / 肺サーファクタント / 新生児呼吸窮迫症候群 |
研究実績の概要 |
ヒト細胞には、主に増殖刺激によって活性化され細胞増殖に作用するERK経路と、様々な環境ストレス刺激に応答して生体のストレス応答を制御するp38/JNK経路という複数のMAPK経路が存在する。細胞運命を決定して、生体の恒常性維持を担うこれらMAPK経路の制御異常が、癌や自己免疫疾患、神経変性疾患、代謝性疾患を始めとする様々な難治性疾患の病因・病態に深く関与することが知られている。しかしながら、MAPK経路の活性制御機構や疾患におけるその破綻に関しては不明な点も多く、その解明は疾病克服の観点からも重要である。私達はこれまでに、MAPK経路による生命機能制御の全容解明を目指して、MAPKシグナル関連分子のオミクス解析を実施し、MAPKの基質分子や標的遺伝子を網羅的に同定してきた。また、MAPK経路の活性制御に関わる蛋白質複合体構成分子の同定も試みている。本研究では、MAPKシグナル関連分子の生理機能および疾患との関連を分子・個体レベルで解明すると共に、数理科学やシステムズバイオロジーの研究手法を導入して生体の情報伝達ネットワークを統合的に理解し、生命機能制御の基本原理を抽出することを目標に研究を実施している。 本年度は、ストレス応答MAPK関連分子の時空間制御を解明すると共に、その生理的意義についてモデル生物を用いて解析を行い、環境適応に果たす役割を明らかした。また、生体内の酸化/還元状態を感知し、p38/JNK経路の活性化を導く新たな分子を同定する事に成功した。一方、ERK経路に関しては、我々が同定した新規ERK基質分子MCRIP1の遺伝子破壊マウスを樹立し、発生における役割を解明した。即ち、MCRIP1は肺サーファクタント遺伝子のエピゲノム制御に重要であり、MCRIP1欠損マウスでは肺サーファクタント蛋白質が枯渇する事で新生児呼吸窮迫症候群を呈し、致死となる事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数理解析およびシステムズバイオロジーの方法論を活用して研究を推進した結果、MAPK情報伝達ネットワークの時空間制御機構、新規基質分子の同定とその機能解析、癌を始めとする疾患における制御異常の解明など、多くの知見が得られた。また、モデル生物を用いた個体レベルでの解析も順調に進んでおり、幾つかの重要な成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに同定した新たなMAPK経路関連分子の時空間制御、生理機能、および疾患との関連について、数理科学や構造生物学の手法を活用しつつ、引き続き細胞レベル、個体レベルで研究を推進し、新たな成果を得る。また、異分野間の学術的連携を深化させ、情報科学やオミクス解析を融合させたシグナル伝達研究、疾患研究を幅広く展開する。
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