研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
17H06371
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
平野 誉 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20238380)
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研究分担者 |
末延 知義 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90271030) [辞退]
石田 尚行 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (00232306)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | ソフトクリスタル / 分子性固体 / 光物性 / 化学発光 / 時間分解分光 / 1,2-ジオキセタン / 過酸化物 / 金属錯体 |
研究実績の概要 |
本研究では、ソフトクリスタル化学発光系の創製と刺激応答発現、作用機序解明と時空間制御を目指す。具体的に、項目1として結晶化学発光を示す反応系の構築とその分子機構解明、学理確立を図る。項目2では、外部刺激に応答した格子エネルギーの空間伝播が実現可能なソフトクリスタルを創製し、その作用機序の解明を行う。両項目を踏まえ、超高感度刺激応答材料の機能開拓への展開を図る。 項目1では、結晶内化学発光を検討する反応基質として、アダマンタン構造を有する3系統の安定1,2-ジオキセタン誘導体を安定的に合成し、これらの結晶試料の加熱による化学発光反応を発光観測で追跡する実験基盤を強化した。同時に、反応追跡をより容易にする方法論として、化学発光基質に連結する蛍光色素を強発光性にすることで結晶内反応における反応場の微小変化を追跡可能にした。この結晶内反応場の変化については、顕微鏡観察による結晶の形態変化追跡と、共同研究にて単結晶構造解析、粉末X線回折測定、熱拡散率を含む熱分析、理論計算を実施することで、結晶内特有の反応進行度合いが関わる反応特性を見出すことができ、学理構築を進展させた。この知見で論文発表の準備を進めている。また、化学発光基質の分子構造と結晶内反応性の関係から、結晶内反応の相変化様式が複数存在することを見出し、様式の支配因子を探る学理探求につながった。さらに刺激応答性の探索が進むと共に、架橋型過酸化物由来の化学発光では、化学発光反応と結晶相変化が競合する反応系であることを見出し、結晶場と反応性が強く相関する反応系の機構解明の基盤を整えた。 項目2では、結晶中で進行する化学発光反応の追跡に顕微鏡観測が不可欠なことが解り、観測体制を強化した。単一結晶レベルで結晶の相変化と熱拡散率変化の同時観測に成功し、さらに化学発光の経時変化の結果と組み合わせて論文発表の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソフトクリスタル化学発光系として安定1,2-ジオキセタン誘導体と架橋型過酸化物を改良して種々合成した。特に、強発光性の蛍光色素を連結した誘導体が合成でき、研究を深化すると共に加速することができた。これらの化合物を発光基質に用いて、発光観測による結晶化学発光の発光特性と反応性を追跡した。発光測定を高感度で行うためのセル室等も改良しながら研究を進めた結果、結晶内反応特有の化学発光特性と反応性、刺激応答性を見出すことができた。さらに、結晶内の反応場の時間変化の解析が重要課題となった。本課題に対し、顕微鏡観察による結晶の形態変化を追跡する実験体制を整備すると共に、領域内の共同研究による単結晶構造解析、粉末X線回折測定、熱拡散率測定を含む熱分析、結晶状態の理論計算を進めて、結晶内反応の進行度と結晶相変化の関連についての知見を得ることができた。特に、ソフトクリスタル化学発光の精密観測として、単一結晶レベルでの顕微鏡観察と化学発光追跡、熱物性測定による検討を進めることで、多面的に結晶内化学発光反応が解析できるようになり、ソフトクリスタル化学発光系の反応論の学理を提案する段階まで研究を進展することができた。 以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで合成した3系統の安定1,2-ジオキセタン誘導体と架橋型過酸化物を化学発光基質に用い、結晶状態での化学発光反応について、系統的な分子構造の違いと発光特性、反応性、分子集積構造の相関が明らかになりつつある。特に、強発光性の蛍光色素を連結した誘導体が研究の幅を広げており、ソフトクリスタル化学発光系における結晶内反応の分子機構の解明を進めて学理構築を進める。見出されている刺激応答性では、一般性の確立による学理を探求する。 結晶内特有の化学発光の解析では、発光特性、反応性、結晶構造とその反応進行度による変化を関連付けながら調査する必要がある。結晶試料の加熱と刺激付与に応じた化学発光測定と生成物分析を進めると共に、不安定結晶の単結晶構造解析、反応進行に伴う結晶の形態変化の顕微鏡観察、粉末X線回折観測、熱拡散率を含む熱分析、理論計算を組合せた検討を、領域内の共同研究体制を活用して引き続き推進する。単一結晶レベルの観測も可能になってきており、複数の計測法を組み合わせた同時観測を強化して、結晶内反応の学理を確立する。 刺激応答性化学発光の解析では、刺激の性質・強度と化学発光反応の進行度の関係を精査し、刺激応答性の一般性を確立して起源を探求する。力学的な刺激応答性の定量的評価は領域内共同研究が必須であり、反応進行を解析するための上記の共同研究体制に加え、領域の総力を挙げて刺激応答性反応のダイナミクスの検討を進める。
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