研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
17H06372
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 文菜 自治医科大学, 医学部, 講師 (50717709)
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研究分担者 |
福本 恵紀 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任助教 (20443559)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | X線結晶構造解析 / X線吸収分光 / ベイポクロミズム / ルミノクロミズム |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に開始した複数の領域内共同研究について、引き続きソフトクリスタル群への外場印加下でのX線結晶構造解析、及びX線吸収分光測定の適用を推進した。本研究の実験は、主に放射光X線を用いて実施した。多様な性質を持つソフトクリスタル群の放射光実験を行うためには、継続的なマシンタイムの確保が不可欠である。そこで、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設Photon Factory(PF)における長期優先課題であるS2課題を取得し、本年度中に13回、計632時間のマシンタイムを利用した。その中で、領域内共同研究8件、領域外共同研究2件の実験を行った。たとえば、A02-02班のMn錯体単結晶は、結晶溶媒の違いにより、異なる発光色を示し、発光寿命などの性質も異なる挙動を示す。本研究では、それぞれの溶媒を含むMn錯体に対して、光照射前後での結晶構造解析を行い、分子構造変化を可視化した。単結晶構造解析では、結晶内に含まれる分子の平均構造が観測される事になるため、励起状態の割合が少ない場合は検出される構造変化は非常に小さいことが予想される。そこで我々は、構造変化を可視化するため、差フーリエ電子マップを用いた解析を行い、微小な構造変化の抽出に成功した。また、A01-01班のベイポクロミズムを示すPt錯体は、メタノール蒸気にさらすことで赤色発光を示す。この試料は、多孔質材料であるメソポーラスシリカに担持させることでPt-Pt間相互作用を促進させているため、単結晶を得ることは困難である。そこで、Ptに着目したX線吸収分光測定を行い、Pt周辺環境を可視化した。その結果、Ptにビピリジンが配位している状態を確認することができた。また、今年度は博士研究員1名を雇用し、多数の共同研究を効果的に推進することが出来た。研究成果については、現在論文にまとめているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソフトクリスタルと呼ばれる新規機能性物質群の多くは有機低分子結晶や金属錯体結晶であるが、従来の強固な単結晶群とは性質が異なり、光、機械刺激、蒸気等の微小な外場によって結晶相転移や発光特性変化等を示すことが知られている。さらに、同一の分子からなる結晶でも、結晶多形による発光色の変化や、機械刺激に対する異なる応答など、その複雑な機序はまだ解明されていない。本研究の目的はソフトクリスタルの相転移過程における構造、及び電子状態の変化をX線分子動画撮影法によって可視化し、ソフトクリスタルの機能由来について指針を与えることである。 昨年度は、放射光施設での実験に向けて実験条件などを決定する予備実験用の設備を整えるため、大学内に顕微分光システムを導入した。今年度は、放射光施設での継続的なマシンタイムの確保を実現し、多くの領域内共同研究に関わる実験を行った。また、共同研究を進めるにあたり、博士研究員の参画をもって、効果的な研究推進を行った。その結果、結晶溶媒の種類により異なる発光過程を示す、Mn錯体結晶の励起状態の構造情報を明らかにすることが出来た。また、ベイポクロミズムを示すPt錯体試料についても、配位環境を明らかにすることが出来た。さらに、今年度から領域に加わった公募班メンバーとの共同研究も開始し、進めているところである。前者2種の結果については、国内学会での成果発表を行い、現在論文を準備中である。このように、領域内共同研究の推進については、おおむね予定通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降も、引き続き領域内共同研究を進めていく予定である。現在まで、光照射下での結晶構造解析において、差フーリエ電子マップによる微小構造変化の抽出を行ってきた。来年度以降はそれに加え、時間分解実験による、構造変化のリアルタイム測定系を構築する予定である。当初、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設Photon Factory Advanced Ring(PF-AR)のNW14Aという時間分解専用ビームラインの利用を予定していたが、単結晶構造解析には検出器面積が不足するため、他の方法を模索する。まずは、PFの構造生物ビームライン整備されている大型2次元検出器の利用を予定している。具体的には、ビームラインNW12Aにパルスレーザーと同期システムを持ち込み、実験系の構築を試みる。PF-AR加速器リングとの同期を実現させるため、施設側との打ち合わせや調整などを行い、進めていく予定である。 また、外場として与える摂動についても、光照射だけでなく、電場印加や機械刺激の付与等についても実験設備を整え、共同研究を推進していく予定である。それらの研究成果を論文にまとめ、国内外の学会での成果発表も行っていく。
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