研究実績の概要 |
ソフトクリスタルは,弱い外部刺激によって結晶構造とその物性が変化する特異な分子性結晶である。本研究では、そのような新奇現象を理論的に解析するため、有機金属錯体を扱える高精度結晶力場を開発すると伴に、結晶多形探索と粉末X線回折による結晶構造予測、構造相転移のメカニズム解析を行ってきた。これまでに領域内17件もの共同研究の課題を進め,それらの研究成果は論文や国際会議で発表している。今年度の主な取り組みについて以下に報告する。 (1)相転移を伴うベイポクロミズムや摩擦発光現象が観察されている発光ランタニド(Ln)錯体は、Lnイオンの配位数が6~12までと広く、配位子のわずかな変化がパッキングに大きな影響を及ぼすため、これまで、計算化学による研究が困難であった。本研究では、A03-02班の長谷川グループ(青山学院大)が決定した6座ビピリジン誘導体を配位子とする10種類のLn錯体の結晶構造を再現するようにLnイオンの結晶中におけるvdWパラメータを決定した。これにより、有機Ln錯体の結晶構造の安定性や動力学解析の定量的評価を可能にした。[BCSJ 2021, 94, 2973] (2)テレフタルアミド(TPA)の有機超弾性現象を解明するには、非等方的せん断ストレスを印加した時の結晶構造の変形とポテンシャルエネルギー面の変化を考慮する必要がある。そこで、高精度第一原理計算で求めたForceを参照して分子内力場を最適化するForce Matching法を導入し、結晶内における構造変形を正確に再現できるようにするとともに、外部ストレス印加下で結晶構造を最適化するシミュレーターを開発した。また、結晶ポテンシャルエネルギー面の解析から、有機超弾性現象で現れるα-β相間の多形転移を伴う分子配列と分子間相互作用ネットワークの変化を明らかにした。[日本コンピュータ化学会2021年春季年会, P14]
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