研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
17H06374
|
研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
長谷川 美貴 青山学院大学, 理工学部, 教授 (70306497)
|
研究分担者 |
山中 正道 静岡大学, 理学部, 准教授 (10377715)
徐 超男 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 総括研究主幹 (70235810)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
キーワード | ソフトクリスタル / 薄膜 / 希土類 / 発光 / 構造 |
研究実績の概要 |
希土類錯体に長鎖アルキル基を導入したソフトクリスタルの光化学機能開拓を試みた。配位子が6個の窒素原子で希土類イオンに配位しヘリカルな構造を有する分子に炭素が種々の個数で連結したアルキル鎖を含むアシル基を導入した。この系は、ヘリカルな時と希土類の発光の様相が異なったため、理論計算と単結晶構造解析により、溶液中では金属と配位子が1:2で、固体では2:3の比率で結合している分子種に変換され、その際に窒素原子ではなくアシル基の酸素が希土類イオンと配位結合することを見出した。この成果はDalton Trans.(Back cover)およびChem. Lett.に掲載された。 また、ナフトエ酸に炭素が15個のアルキル基を導入した配位子を新たに設計し、新しい方法で合成を行った。この分子を湿式法で石英基板に移し取り希土類を含む分子膜を積層させた。この構造解析は、放射光実験施設SPring-8の粉末XRD装置にアタッチメントを取り付け層間距離を、光導波路分光測定によりπ電子系の傾きを求め、結晶構造とは異なる分子配列の形成を確かめた。この薄膜はナフトエ酸を光アンテナとし、希土類イオンから強いff発光を示すとともに、この発光に直線偏光特性があることを見出した。この系はNew Journal of Chemistry誌に掲載され、表紙に採択された。 また、重水中でのランタニドヒドロゲル形成を試み、その分子集合体のバンドル形成と発光現象についても相関をまとめ、学術論文としてRSC Advancesに掲載された。その他、チームとして20報の論文を掲載することができた。 研究代表者は、国際会議・集会で15件の招待講演を行うなど、直接専門家と研究成果を議論する場を得ることができ、2名の学生が日本化学会CSJ化学フェスタで優秀ポスター賞を受賞するなど、積極的な成果報告を行い、それらが高く評価された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単分子膜の累積には、水面での分子膜のフレキシビリティが必要で、累積実験の条件を精査することが極めて難しいため、時間がかかることが予測された。しかしながら、高い発光量子収率を示す条件まで見出すことができ、予定よりも早く膜状のソフトクリスタルを累積させ、偏光発光発現まで含めて論文として報告することができた。なお、この系はプレスリリースにより多くの新聞に取り上げられた。その他の系についても順調に研究が進んでいる。 また、いわゆるキレート効果を組み込んだ希土類錯体にアシル基を導入すると、その酸素原子の電荷密度がキレート効果よりも優先的に作用すること発見した。この系は、種々のアルキル鎖長の誘導体を用い、それらの発光スペクトル、発光寿命、発光量子収率が、アシル基を持たない母骨格の系と明らかに異なる傾向を示すことから派生し、期せずして希土類錯体のキレート効果の科学の本質を証明することに至った。溶液中ではTD-DFT計算に基づく予測が実験結果のトレンドをよく再現し(Dalton Trans.)、さらに単結晶が得られたので放射光X線構造解析を行い、確かにアシル基酸素が6座のキレート効果を促すヘテロ環窒素よりも優先的に希土類と配位結合することを実験的に証明できた(Chem. Lett.)。
|
今後の研究の推進方策 |
キラルな分子構造がソフトクリスタルの発光機能に及ぼす影響について、その分子構造変化と円偏光発光あるいは円二色性吸収スペクトル等とともに精査していく。具体的には次の系を取り扱う。なお、これらの系は、グループ内での共同研究、加藤昌子先生(北海道大学)、石井和之先生(東大生産研)とも協力し、目的を達成していく。 (1)円偏光発光性を示す非対称な希土類錯体の機械的刺激による発光発現とその分子配列変化の相関に着目して研究を進める。また、類似した物質系で、ヘリカルな構造を有する分子を用いると結晶溶媒の種類により発光が変化する、いわゆるベイポクロミズム現象を発見している。 (2)トリボルミネッセンスを示す低分子希土類錯体を発見した(未発表)。配位子のエネルギー移動を経由したいわゆるフォトルミネッセンスの原理とは異なる経路でのエネルギー失活によるものであると推測されているが詳細は不明瞭である。本系では、新たな機能発現とその効率化を目指し、低分子希土類錯体を用いたトリボルミネッセンスの原理解明に取り組む。 (3)分子の膜化とその界面での集合化に焦点を当てた希土類薄膜の長残光化に取り組む。これらの媒体にはアミノ酸やバイオミネラル等を用いる。
|
備考 |
2018年度に青山学院大学が集中的に本研究課題を推進するために研究所を設置してくださった。長谷川は現在研究所所長を兼任し、研究会を中心に新たな課題に向けた共同研究を積極的に行っている。
|