研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
17H06375
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 和之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20282022)
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研究分担者 |
宮武 智弘 龍谷大学, 理工学部, 教授 (10330028)
高江 恭平 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (30739321)
恩田 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (60272712)
篠崎 一英 横浜市立大学, 理学部, 教授 (40226139)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 準安定状態 / ポルフィリン / 機械的回転 / 相転移 / 分光 |
研究実績の概要 |
本研究では、ソフトクリスタルにおけるマクロな低刺激とナノ構造変化を繋ぐ学理を解明することで、全く新しい機能性素材の開発指針を得ることを目的とする。具体的には、以下の研究成果を得た。 1、ソフトクリスタル準安定状態の創製技術開発:渦運動は本質的にキラルであるが、スケールの違いにより、マクロな渦運動はナノスケールの分子のキラリティーには影響を与えないと考えられてきた。今回、ロータリーエバポレーターにより、フタロシアニン分子の単量体を含む溶液を濃縮することにより、キラルな触媒を用いずに、マクロな機械的回転に応じて、右巻きまたは左巻きにねじれたフタロシアニン キラル会合体を、高い再現性で合成することに成功した。会合体の“ねじれ”構造は、円偏光二色性分光測定により決定され、フラスコ内流体運動の“ねじれ”も計算することで、キラル誘起機構を提案することができた。 2、ソフトクリスタル評価方法の開発:熱活性化遅延蛍光材料や鉛ハライドペロブスカイトによる光電変換材料について、各種時間分解分光測定を行い、分子構造柔軟性と機能発現メカニズムや、構造ダイナミクスと電子物性などの関係性に関する知見を得ることができた。 3、モデル化による相転移の原理解明:内部自由度(ナノスケールで形成・消滅する局所安定構造)の変化を伴う相転移として、液体―液体相転移の流体力学的効果について調べた。相転移を記述する流体力学理論を確立し、理論解析および数値シミュレーションにより、液体―液体相転移において流体力学的輸送が果たす役割を解明した。 4、ソフトな材料との複合化による新規機能開拓:ソフトクリスタルの構成要素である金属錯体の光化学を調べるとともに、クロロフィルの会合挙動・分光特性が脂質二分子膜中でその相挙動に応じて制御できることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロータリーエバポレーターのマクロな渦運動で、フタロシアニン分子の単量体を含む溶液を濃縮することにより、キラルな触媒を用いずに、マクロな機械的回転に応じて、右巻きまたは左巻きにねじれたフタロシアニン キラル会合体を、高い再現性で合成することに成功した。会合体の“ねじれ”構造は、円偏光二色性分光測定により決定され、フラスコ内流体運動の“ねじれ”も計算することで、キラル誘起機構を提案することができ、当初の目的の一つを達成できた(本成果は、日本経済新聞 (2019年11月5日)、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム(2019.11.22)、Chem-Station(2019年12月12日)、マイナビニュース(2019年12月20日)、goo ニュース(2019年12月20日)、academist Journal(2019年12月23日)、Science Daily (2019年11月1日)、Phys.org (2019年11月1日)などで報道され、社会的インパクトファクターAltmetrics75となり、大きな反響があった)。 また、測定に関しても、超解像顕微分光や赤外分光において、ソフトクリスタルに適した装置調整も順調に進んでいる。さらに、相転移を記述する流体力学理論を確立し、理論解析および数値シミュレーションにより、液体―液体相転移において流体力学的輸送が果たす役割を解明しており、本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ソフトクリスタル創製:種々の置換基を持つクロロフィル誘導体を新規に合成し、その自己集積体を用いて、温度や力学的な刺激で構造変化 できる天然色素由来のソフトクリスタル特性の発現に取り組む。 ソフトクリスタルの評価及び機能化:令和元年度までの研究により、合成した様々なフタロシアニンの溶液をロータリーエバポレーターで濃 縮することにより、①回転方向に依存したCD信号を有するキラル薄膜が形成されること、②加熱・放冷や機械的刺激により構造相転移を起こす こと等を見出している。今後は、共同研究により構造解析などを試みるとともに、キラル薄膜形成の更なる解明を試みる。さらに、構造相転 移速度への中心金属イオン(Pt2+、Pd2+、Ni2+)の効果をエンタルピー・エントロピーの観点から調べる。これらの研究を遂行することで、既 存の方法とは原理的に異なる“機械的回転でソフトクリスタルを捩じる”という革新的技術の創製に取り組む。 ソフトクリスタルの物性評価:分子構造に関する情報が得られる測定(X線構造解析、計算と連動させた赤外分光)、結晶構造に関する情報 が得られる測定(超解像顕微鏡など)を行うことで系統的研究・定量的評価を展開する。今後は特に、遷移金属錯体結晶の光吸収・発光に及ぼすベイ ポクロミズムに焦点を絞り、平成30年度・令和元年度の科学研究費補助金で購入した超解像蛍光顕微鏡・共焦点顕微鏡による測定、X線結晶構造や赤 外分光による測定により、相転移機構の解明を試みる。さらに、感圧発光性結晶の圧力制御下での測定も行うとともに、温度可変の時間分解赤外、可視過渡発光吸収分光、時間分解ラマンにより複合的な解析を行う。 得られた相転移現象に対して、外部応力により超弾性を示すような結晶をモデル化し、その構造変化の動力学および非線形力学特性を制御することも試みる。
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