研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
17H06376
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
グン 剣萍 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (20250417)
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研究分担者 |
黒川 孝幸 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (40451439)
野々山 貴行 北海道大学, 先端生命科学研究院, 特任助教 (50709251)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 高分子構造・物性 / ソフトクリスタル / 構造色 / 生体模倣 / 刺激応答 |
研究実績の概要 |
【ラメラゲルの構造色変化による混合溶媒の溶媒比の可視化】poly(dodecyl glyceryl itaconate)(PDGI)二分子膜とポリアクリルアミド(PAAm)層の積層構造から成るPDGIゲルはPAAm層の層間長に起因する赤色から紫色まで連続的な構造色を示す。このゲルを種々の混合比のイオン液体/水混合溶媒に浸漬させたところ、イオン液体の含率の増加に伴い構造色がオレンジから青まで変化し、溶媒混合比の可視化に成功した。またイオン液体に完全に置換したラメライオンゲルは極めて高強度・高靱性を示す非乾燥性ソフトマテリアルに変化した。これら溶媒置換は完全に可逆であり何度でも繰り返し使用できる可視化センサーとして応用できる。 【エラストマー力学場中のソフトクリスタルの力学物性評価】ソフトクリスタルの力学物性を測定するために力学場としての柔軟なエラストマー中にソフトクリスタルを埋入し、エラストマーの引張試験と結晶の顕微鏡観察を同時に行うことで結晶の破壊応力(σ_F)及び破壊歪(ε_F)を求めた。針状の単結晶ソフトクリスタル[Pt(CN)2(bpy)]の長軸に対して平行及び垂直方向に引張試験を行ったところ、長軸(c軸)のσ_F=0.045 MPa、ε_F=0.05に対し、短軸(b軸)ではσ_F=0.5 MPa、ε_F=0.32を示し、力学的異方性を評価することに成功した。 【ソルバトクロミズムを利用した分子拡散の可視化】ソルバトクロミズムを示すソフトクリスタルを用い、ハイドロゲル中の分子拡散の様子を可視化した。一般的なポリアクリルアミドゲルに[Pt(CN)2(bpy)]を埋入したところ、水分子とソフトクリスタルが相互作用を形成することでオレンジ色を示した。そのハイドロゲルへ外部からエタノールを拡散させるとエタノールによって結晶が脱水和しオレンジ色から緑色へ変化し、拡散の様子を可視化することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イオン液体を二分子膜ゲルの溶媒に用いることで、溶媒と高分子間の相互作用による材料の高靱化だけでなく、ハイドロゲルに常に付きまとう乾燥の問題を解決し、大きな進展と言える。 ソフトクリスタルの力学評価について、エラストマーを力学場とすることで、小さい結晶の力学測定が容易に評価でき、結晶の短軸と長軸で破壊のプロファイルが異なることを実測した。 ハイドロゲルは様々な物質が容易に拡散できるが、色素以外を可視することは難しい。ソルバトクロミズムを有するソフトクリスタルを埋め込むことで、対応する低分子がゲル内部を拡散していく様子を可視化することに成功した。 総じて、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年に引き続き、ソフトクリスタルの相転移に要する力の閾値を測定するために、青山学院大学 長谷川美貴教授、大阪大学 末延知義助教及び北海道大学加藤昌子教授らが開発している種々のソフトクリスタルを高靱性エラストマー内に包埋し、マクロなエラストマーの変形を介して、ミクロなソフトクリスタルの力学物性を評価する。また、蛍光顕微鏡を用いて引張測定の様子をその場観察することで、力学プロファイルとクリスタルの形態変化を合わせて評価する。 熱で可逆的に1,000倍以上弾性率が上昇するソフトマテリアルの構造評価を熱分析が専門の東京工業大学 森川淳子教授と行う。本材料は、ある温度以上で二相に分離する下限臨界共用温度(LCST)を有し、この相分離が力学物性転移を引き起こす。この際、非常に多くの界面を形成するため、大きな界面熱抵抗が生じると予想される。よって温度掃引しながら熱拡散率を測定し、そこから相分離構造の形成及び成長過程を評価する。薄くスライスした本試料に対して、森川教授が開発した正弦波の温度振動を印加する温度波熱分析装置を用いて評価する。本材料は、相分離を起こすと高分子が高密度になった疎水ドメインを形成する。この疎水場形成を観察するために、疎水環境でのみ蛍光を生じる蛍光物質ANSを本試料に含浸させ、東京大学 石井和之教授らと共に高分解能レーザー共焦点顕微鏡を用いて、形態変化を観察する。
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