研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
17H06377
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小林 範久 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (50195799)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | DNAソフトクリスタル / 発光錯体 / 希土類錯体発光増強 / 円偏向発光 / 分子配向分極 |
研究実績の概要 |
本研究では,複合した機能材料の機能向上に有効なDNAと発光分子からなる高次規則配列集合体を作成,高い発光円偏光度と強発光性を示すDNAソフトクリスタル(DNA-SC)の創製を目指す。さらに革新的な機能発現,素子化応用を通し領域の発展に大きく貢献することを目的とする。2019年度は単独に以下の2点で実績を残した。 ①DNA-SCの機能発現の一つとして考える電気化学発光(ECL)において世界初の三重項-三重項対消滅型アップコンバージョン(TTA-UC)に基づく発光を観察した。ジフェニルアントラセン(DPA)とRu錯体の混合溶液中で,Ru錯体励起によるTTA-UCを検討するため,Ru錯体光励起を行ったところ,Ru錯体由来の橙色発光に加えDPA由来の青色発光が観測され,DPAへのTTA-UC発光が示唆された。これをECLへ展開するため,混合溶液2極型ECL素子を作成,DPA単体素子ではECLが発現しない低電圧(±2.5V)を印加したところ,DPA由来の青色発光が発現した。詳細な解析によりDPAのECL発現はRu錯体の電気化学的励起状態形成に続くTTET,TTA-UCに基づくことを明らかにした。 ②ポリグルタミン酸エステルはDNAと同様主鎖がらせん構造を持つ。この固体膜はコレステリック液晶様の結晶構造を有するが,側鎖メチル基の場合,電圧印加に伴い側鎖の分極により強誘電性を示す。この分極は側鎖の回転反応に基づくと考えられ,外部刺激による結晶構造中の変化:SCの概念と一致する。この機構を明確化するため,側鎖ベンジル基で検討を行ったところ,高結晶化度のため,強誘電性ならびにOTFTメモリー素子機能は発現しなかった。この結晶化度を下げる混合系において機能が確認されたことから,外部刺激による結晶構造変化とも言えるSC概念がOTFTメモリー機能の要因であることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度計画として以下3項目を目的とした。①新規キラル発光性錯体や分子をDNAと組織化,外部刺激応答するソフトクリスタル(SC)群を領域内共同研究強化により創製。②DNAやらせん高分子と界面活性剤の複合・薄膜形成により得られるソフトな集合状態(生体高分子SC)の構造を定義,機能の発現。③外部刺激に対するSC構造変化が機能に与える影響を明確化,特徴ある機能を電気的に誘起できるSCデバイスの創製。 この上で2019年度の成果として,溶媒蒸気や力学的刺激で発光特性が向上するEu錯体と化合物の組合せを見出し,この特性がDNAの複合によりさらに増強されることも確認した(論文作成中)。また,ソフトな集合状態を外部刺激に応答するSCとして定義,機能発現に繋げる計画では,DNAと同様らせん構造を持つポリペプチドがコレステリック様な結晶性薄膜状態を取り強誘電性を発現することを認めた。コレステリック様結晶性薄膜中で電界に対して置換基が反転し二値状態を取りうることを示唆しており,外部刺激に応答するSCの概念に一致する成果と思える。さらに我々の目的のDNA-SC機能発現の一つである電気化学発光(ECL)において,世界で初めてTTA-UCに基づく発光を観察したことは論文誌ChemCommの裏表紙採択からも評価が得られていると考えられる。次年度はDNA-SCへの展開を達成する。 一方,領域内共同研究では,A01班員と新規な特性を発現するSCを論文化,投稿審査中である。また,A03班員の新規Eu(III)錯体にDNAを組合せることで特徴ある構造変化ならびに発光増強が起こることも見出し現在機構解明を行っている。その他,A01班の分子系を用いた発光素子開発(継続),A03班の複数の班員へのDNAの提供と機能発現の共同研究を展開しており,2020年度には議論を重ねた上で論文化を計る。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は2019年度の計画を進化ならびに深化させ,我々が持つDNAと発光材料の相互作用に関する知見と,領域研究者が有する新規発光性材料の融合による共同研究をさらに強力推進,SC学理確立に合致した「複数の刺激により高発光強度とCPL特性を示すDNA-SCの創製とデバイス化」を目的とする。DNAとキラル発光性錯体および機能分子との相互作用形態の解明を通し,高いCPLや特徴ある発光特性ならびに電子的特性を示すDNA-SCを創製する。これらの構造的,光学的,電子的特徴を理解し,領域内共同研究を強化することで,DNA-SCのデバイス化とその機能発現を行う。具体的には ①2019年度に見出した,溶媒蒸気や力学的刺激で発光特性が向上するキラルEu錯体と化合物の組合せ,ならびにDNA複合による増強効果について,その機構を解明するとともに素子化を実現する。機構解明においては溶媒物性値や温度を因子として構造と光物理特性との相関を明らかにし,その解明過程で得られる知見を基にデバイス化を計る。 ②ポリペプチドならびにDNA複合体中での強誘電特性がどのような極性基分極反転に基づくかより詳細な電気的ならびに光学的解析から明らかにする。これら薄膜中での規則構造の電界による変化の最適条件探索を通してより高いON-OFF特性とONならびにOFFメモリー安定性を示すOTFTメモリーを開発する。 ③DNA複合体中でのTTA-UCに基づくECL発光を得られる素子条件を確立する。DNAへのECL材料の複合によりSCともいえるECL材料の集合構造が得られる。この集合体構造は電気化学系としては特筆すべき高速応答ECL(サブミリ秒)を可能にする。TTA-CUを発現できる構造条件をX線解析や超解像顕微鏡(共に領域設備)から決定し,電気化学発光性DNA-SC素子を世界に先駆け,領域内共同研究も通して創製する。
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