研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
17H06382
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
小林 春美 東京電機大学, 理工学部, 教授 (60333530)
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研究分担者 |
馬塚 れい子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (00392126)
松井 智子 東京学芸大学, 国際教育センター, 教授 (20296792)
広瀬 友紀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50322095)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 意図共有 / 階層性 / 言語発達 / 直示コミュニケーション / 非曖昧化 / 発話意図 / 個人差 / 句構造 |
研究実績の概要 |
認知発達班は5つのテーマすなわち1)階層構造の基盤単位:神経律動と音韻サイクルの関係、2)直示コミュニケーションにおける非曖昧化、3)直示コミュニケーションにおける発話推論、更に階層化と意図共有の融合研究として4)韻律が句の階層化に果たす役割、5)言語発達と認知発達の関係のもと、研究を進めた。とりわけ直示(ostension)の出現と人間の共創的言語コミュニケーションの進化との関係について、言語の個体発達過程から明らかとするため、音の分節化を可能とする脳の神経基盤、直示コミュニケーションの形式の発生と精緻化、階層性と文法から調べ、階層性と意図共有の発達の仕組みとそれらの融合による言語進化解明に向けて、認知発達の観点から取り組みを進めた。 領域会議への貢献に加え班会議で研究結果を共有し、意図共有と階層性に関し言語進化への洞察を深めた(2019年12月)。さらにB03主催・共催のシンポジウム・ワークショップを多数開催し、議論を進めた(2019年7月、8月他)。特筆されるのは、8月13日に京都で開催した、ジェスチャー言語起源論で著名なMichael Corballis(University of Auckland)、他ジェスチャー研究で世界的な業績を挙げているSotaro Kita(University of Warwick )、Ulf Liszkowski (University of Hamburg)を招聘した国際シンポジウムである。ジェスチャーが乳児の発達において言語に先立ちまた支持する重要な役割を果たすことや、言語起源解明への示唆について、多くの聴衆とともに意見交換を行い議論を深めた。さらにこれらの国際的ジェスチャー研究者とB03との共同研究を複数開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳児の音声知覚による分節化を脳波実験により調べ、特定領域において神経律動に対応する引き込み現象が起こることを発見し、神経律動と音韻分節の関係をモーラ言語において見出した。また定型発達児とASD児で子音のカテゴリー知覚発達に相違があることを発見した。ASD児による意図共有のしにくさは、音の分析過程でのつまづきも影響することを示唆する結果である。 句構造解釈について、プロソディー処理により統語構造の再解釈が起こることを成人において発見した。Metrical boostと階層構造の解釈について、5歳でコントラスト情報の処理が可能となるが、成人と異なり、同一の情報を解釈しなおすということはしないことを見出した。 教示行動において、年長幼児では指さしや指示詞による指示対象の非曖昧化が可能であることを見出した。また発話とジェスチャーが、句構造のチャンクレベルで同期することを発見した。意図共有を推進するためにジェスチャーが意図共有に果たす役割を示唆する成果である。指示意図の理解は、直示シグナルだけでは指示意図の切り出しに効果がないことがわかった一方、直示シグナルは4歳児になると正しく読み取る傾向が高まることがわかった。また幼児は、産出において直示シグナルの置き換えができることがわかった。 在英バイリンガル児の英語・日本語能力を統語・語用論能力の観点から調査した結果、家庭の言語環境と社会的環境の影響が示唆された。日本語文の理解については、両親が日本語母語話者で渡英時期が3歳未満だった児童の成績低下が目立った。統語構造の違いと意味解釈を検討した。他者視点・自己視点からの解釈におけるASD児とTD児の比較を行った。その結果、心の理論通過と指示不透明性が、文の理解課題の得点の向上に関係があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度以降は、1)階層構造の基盤単位:神経律動と音韻サイクルの関係、2)直示コミュニケーションにおける非曖昧化、3)直示コミュニケーションにおける発話推論、更に階層化と意図共有の融合研究として4)韻律が句の階層化に果たす役割、5)言語発達と認知発達の関係の研究推進に加え、他計画研究班との研究推進を引き続き行う。さらに本年度開始した国際的ジェスチャー研究者らとの共同研究や、班間連携研究を推進していく。以上で得られたデータの解析に加え、研究知見の精緻化を行い、論文化するための知見を得ることに尽力する。 令和2年以降ではデータ収集等においてCOVID-19の状況にも配慮し、乳幼児や児童および成人の実験は、可能な方法を取りデータ収集を行うこととする。またすでにこれまでの実験・調査で得られたデータの分析をさらに進め論文化を進める。加えて、社会へのアウトリーチ活動を進め、知見の社会への発信を行う。 若手支援については、これまで培ってきた若手研究者のためのセミナー・シンポジウムの開催ノウハウを生かし、積極的に国際的な研究者と議論する場を設ける。実際にZoom等を利用した遠隔会議のノウハウも培いつつある。これらの方法も含めながら、若手研究者の発表機会確保や、経験豊かな優れた研究者から指導を受ける機会の確保をさらに強化していく。加えて、COVID-19状況の推移を考慮しつつ、一般向けのアウトリーチ活動も進めていく。
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