研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
17H06382
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
小林 春美 東京電機大学, 理工学部, 特定教授 (60333530)
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研究分担者 |
広瀬 友紀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50322095)
橋弥 和秀 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (20324593)
松井 智子 東京学芸大学, 国際教育センター, 教授 (20296792)
馬塚 れい子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (00392126) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 意図共有 / 階層性 / 幼児・児童 / 顔の知覚 / 自閉スペクトラム症児 / ジェスチャー / 音韻カテゴリ知覚 / 語彙アクセント情報 |
研究実績の概要 |
直示(ostension)の出現と人間の共創的言語コミュニケーションの進化との関係について、意図共有と階層性のそれぞれの発達やこれらの相互作用の発達を明らかにするべく研究を進めた。 複数の異なる階層構造解釈が可能な句を用いて、成人によるco-speech gesture産出を検討した。参加者は伝えようとする意味を表す言語のチャンクと、ジェスチャーの産出を共起させることがわかった。意図共有のために言語の階層構造の非曖昧化が起こることが示された(Handa, et al., CogSci2021で発表)。 自他の知識の階層性を検討するために自己アイデンティティ発達の基盤的能力を調べた。生後12か月の乳児24名を対象に、顔画像合成技術を用いて画面に、 自分の顔、 他の乳児の顔、自分の顔50%・他の乳児の顔50%の合成顔 を、左右に提示し注視時間を計測したところ、赤ちゃんが自分の顔画像を見分けていることを明らかにした(Nitta & Hashiya, Infant Beharior and Development, 2021)。 文脈を使って発話(意図)を理解することは、自閉スペクトラム症(ASD)児には難しいが、これは構造的言語能力の発達の遅れや障害が、困難さの要因である可能性がある。ASD児童の文法的能力と語彙力,音韻カテゴリ知覚の成熟度,視覚的認知能力など下位能力との関係性を調べ、特に受動文や,格助詞の使い方が複雑な文を理解する際,語彙力に加え音韻カテゴリ知覚の成熟度が関与していることなどがわかった(松井他,2021,日本発達心理学会;内田他,2021, 日本発達心理学会)。 人間の予測処理において、純粋な語彙アクセント情報から未入力部分の語認識が促進される可能性について近畿方言母語話者と東京方言話者を対象として調べた。語彙アクセント情報の効果は言語普遍的と捉える可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウイルス感染症拡大防止のため対面実験が全般的に難しく、特に実験対象者が子どもの場合、対面実験は不可能であった。たとえば対面で実施しなければならない音韻知覚実験と脳波計測は令和2年度以降中断された(音韻知覚実験についてはオンライン形式で実施することも検討したが,実験の音響環境が児童の家庭の設備に大きく依存するため統制が難しく,断念した)。そこでいくつかの方策を取って研究を進めた。 まず、非対面調査のシステムも新たに構築した場合がある。発達研究においても世界的にオンライン調査が増加しているが、ご協力いただくご家庭によって刺激の視聴環境や通信状態にばらつきが大きいという問題点は否めない。これらのアーティファクトを可能な限り小さくする試みとして、実験刺激を組み込んだiPadを、マニュアル等とともに一式、協力家庭に送付し、保護者の方に実験者の役割をお願いして実施した上で結果とともに返送いただくという調査システムを構築した。5-9歳児38名の家庭を対象に「“お節介“理解の発達過程」に焦点を当てた調査をこの手法で実施することができた。 さらに対面でなくても可能なオンライン実験の実施に注力し、日本語読文時の入力済み要素が文構造構築の過程でどのような役割を果たすか、また、構築される文法構造の理論的示唆を検討する読み時間実験(成人母語話者対象)などを行った。結果の一部は複数の国内外の学会で発表している。 成果を広く共有し社会に還元するため、アウトリーチとしては、「チコちゃんに叱られる」(NHK)、「ヒューマニエンス」(NHK-BS)に出演し、ヒトにおける白目の進化(Kobayashi &Hashiya, 2011)について解説を行った。また、Nitta & Hashiya (2021)の研究内容は日本経済新聞(2/14)に報道された。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の進捗感染症の収束があれば対面実験を全面的に再開したい。データを収集し分析して発表活動を行っていく。対面実験再開が難しい場合はオンラインで実施できるものを中心にリソースを振り向け、できる 範囲で研究を進展させていく。 子どもを対象にした遠隔オンライン実験についてデータ収集を完了し、成果報告を行いたい。加えて既存データの分析成果発表するために国内外の学会および学術誌に投稿中を行っていく。対面実験を前提に計画していた、子供の心の理論の発達と情報構造の言語化に関する実験を、遠隔仕様に修正してzoom上でのデータ収集を開始したい。 オンラインでの反応時間計測が可能なプラットフォーム“Gorilla”をもちいた調査を、成人を対象に予備的に開始したい。 また対面実験再開の有無に関わらず、遠隔実験の技術的検討も進めていく。日本語の枝分かれ曖昧性の処理と韻律情報の役割についての視線計測実験を遠隔で行うためのWebgazer/PCIbexを用いたデータ収集に向けて、技術的検討・方法の開発を進める。
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