研究領域 | ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 |
研究課題/領域番号 |
18H05537
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中家 剛 京都大学, 理学研究科, 教授 (50314175)
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研究分担者 |
福田 努 名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (10444390)
中平 武 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30378575)
小関 忠 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 教授 (70225449)
清矢 良浩 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (80251031)
木河 達也 京都大学, 理学研究科, 助教 (60823408)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 加速器 / 反粒子 / 対称性 |
研究実績の概要 |
本研究では、T2K実験でニュートリノ振動を精密に測定することで、ニュートリノ質量とその混合を決定し、素粒子の対称性を精査する。対称性は、大統一理論などの新物理を解明する鍵であり、本領域の目標「新しい素粒子・宇宙像の創造」に向けて必要不可欠な研究対象である。 ニュートリノ振動の測定を改善するために、次の研究を進めた。(1)J-PARC加速器の大強度陽子ビームを見る新しい目となる革新的なビームモニター「16電極ピックアップ型非破壊ビームモニター」とそのデータ処理装置を製作した。このビームモニターにより、新しいビーム診断が可能となり、ビームの理解が進みビーム強度の改善が期待できる。(2)ニュートリノ反応の不定性を削減するために新しいニュートリノ反応測定実験の準備を進めた。実験は、「水」を標的とし原子核乾板を主検出器とする。さらに、位置と時間情報を付加するファイバートラッカー、ミューオン測定用のB-MRD検出器からなる。2018年度はファイバートラッカーを製作し、設置した。B-MRD検出器も完成させ、実験全体の準備が整い、ニュートリノビームデータ収集を開始した。また、新実験と並行して、過去のパイロット実験(ニュートリノビーム照射)で原子核乾板に記録したニュートリノ反応データの解析を進め、解析プログラムを整備し、物理測定が可能となった。(3)T2K実験で、ニュートリノ振動の解析方法を改良し、新たなデータを加えてニュートリノ振動でCP対称性が2σの有意度で破れている結果を得た。さらに、T2K実験の前置ニュートリノ測定器のデータを解析し、より広い位相空間をカバーしたニュートリノ反応断面積の結果や、原子核効果に高い感度を持つニュートリノ反応の解析を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加速器ビームの理解とその改善、ニュートリノ反応の新しい測定、ニュートリノ振動の感度向上、と研究全般は概ね順調に進展している。ニュートリノ反応の新しい測定に用いる検出器B-MRDで、当初予期していた性能が出ていないことが判明したが、実験経費を繰り越し、研究課題を継続することで、当初の性能を達成することに成功した。 (1)J-PARC加速器用の「16電極ピックアップ型非破壊ビームモニター」は無事に完成し、ビーム診断に活用できる準備が整った。大強度のニュートリビームを安全に運転し、ビーム強度を向上させ、大量のデータを収集することが可能となった。また年度の前半にニュートリノビームのデータ収集を行い、測定の統計誤差が改善した。 (2)「ニュートリノ反応断面積の測定」実験の準備が完了した。水標的と原子核乾板を使った新型ニュートリノ測定器を製作し、エネルギーの異なるニュートリノビームを利用し、ニュートリノ反応のエネルギー依存性まで含めた測定が可能となる。また、原子核乾板の採用により、これまでの検出器では観測できなかった低エネルギー陽子を高い効率で検出し、CCQE やその他の反応形式(CC-1π、2p2h) を高精度で測定できるようになった。これまでに取得した原子核乾板でのニュートリノ反応データを解析し、シミュレーションプログラムを開発し、事象構成効率を改善した。 (3) ニュートリノ振動の解析手法を改善し、CP対称性の破れを探索した。また、T2K実験の前置ニュートリノ測定器を使い様々な「ニュートリノ反応断面積の測定」を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に、実験準備がほぼ整ったと言える。今後は、本研究計画の主題である「ニュートリノ振動を通した対称性の探究」を実現するため、ニュートリノ振動測定の精度向上を目指す。そのために、次の3つの研究課題を実行する。 (1)J-PARC加速器に設置した16電極ピックアップ型型非破壊ビームモニターを運転し、ビーム制御の手法を開発する。合わせて、ハドロン生成測定のデータを活用し、ニュートリノビームフラックスの予想精度を向上させる。ビーム強度の向上、大強度ビームの安全運転を実現し、収集するデータを増加させ、測定の統計誤差を改善する。 (2)ニュートリノ振動の測定精度、特にθ23とΔm32^2の精度を制限しているニュートリノ反応の不定性を削減するために「ニュートリノ反応断面積の測定」実験を行う。実験でニュートリノビームを照射した原子核乾板を現像し、そこに記録された飛跡を観測する。事象構成プログラムを開発し、その性能、検出効率、バックグラウンド量を評価する。ニュートリノ事象を実際に観測し、その測定から物理結果(断面積測定)を発表する。 (3)T2K実験でニュートリノ振動の解析手法を改善し、上記(1)と(2)の研究結果を合わせ、θ23を世界最高精度で測定する。また、CP対称性の破れのパラメータに世界でもっとも厳しい制限を課すことを目指す。
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備考 |
他にも、マンガで科学的な説明を配信: http://higgstan.com 動画説明: 京都大学 ELCAS 平成29年度基盤コース開講式「世界は、何で、どうやってできている?-素粒子物理学、特にニュートリノ研究最前線-」市川 温子
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