研究概要 |
フォトクロミック・ジアリールエテン分子薄膜の新しい機能の一つとして、その異性化状態に依存して金属マグネシウムに対する蒸着特性が顕著に変化するMg蒸着選択機能がある。この機能は、アモルファス分子薄膜の光異性化に伴うガラス転移点Tgの大輻な変化と相関がある。Tgが室温程度かあるいはそれ以下の時に、Mg蒸気原子はその表面では堆積せず「反射」,されることがわかっているが、その表面におけるMg原子の振る舞いについての詳細は不明であった。そこで平成19年度は、特にアモルファス膜表面におけるMg原子の振る舞いを調べた。UV照射により着色状態となったジアリールエテンは、95℃のTgを有している。着色状態に対してMg蒸着の基板温度依存性を調べたところ、およそ70〜80℃程度でMgが堆積しなくなることがわかった。一方で、着色状態から異性化のレベルを消色状態に段階的に変化させていく(すなわち閉環体分子の濃度を減少させる)と、閉環体分子濃度が60%付近にやはりMgが堆積しなくなる状態が存在する。これらのMgが極薄く付着している閾値付近では、AFM観察により通常の着色膜上に堆積したMg膜に比べて、結晶粒が両者とも大きくなっていることが判明した。一般に高基板温度では蒸着原子のマイグレーションが活発化し、その結果結晶成長が促進されることは良く知られている。この結果は光異性化反応によってもそれと同等の効果がもたらされることを示している。つまりMg蒸着閾値付近では表面のMg原子は活発なマイグレーション状態にあるといえる。このことはさらに、消色状態表面によるMg原子の「反射」現象は、実は弾性的な反射ではなく、一旦表面にMg原子が付着し、マイグレーションした後の再離脱であることを示している。
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