計画研究
消色状態においてガラス転移点Tgが低いアモルファスジアリールエテン膜の表面で生じるMg蒸着選択性は、消色状態表面において真空蒸着によって到達したMg原子が、一旦表面に付着し再離脱することで、膜表面にMg膜が形成されないことが原因である。しかしながら消色状態であっても、蒸着速度を上げていくとMg膜が形成されるようになる。この事はMg膜形成が、Mg原子とジアリールエテン分子自体の相互作用の大小が直接的な原因で起きるのではなく、表面におけるMg原子の密度が高くなり原子同士の衝突によって生じるMgクラスターがMg膜形成の核となることを示している。即ち、有機膜表面への金属蒸着・離脱特性は、金属原子の蒸着速度に強く依存することが、明らかとなった。種々の金属種について蒸着速度を0.05nm/sから10nm/sまで変化させて金属蒸着特性の有無を調べたところ、Znでは10nm/s付近において、またMnでは0.05nm/s付近において、それぞれ異性化状態に応じた金属膜形成が変化する蒸着選択性が発現することが判明した。さらに、典型的な光反応性有機膜として、市販のフォトポリマー膜に対する蒸着選択性の有無についても調べた。用いたフォトポリマーは、未硬化状態では氷点下のTgを有し、UV照射による硬化後はそれが140℃以上にまで上昇する。実験の結果、フォトポリマーにおいてもMg蒸着選択性、及びUVレーザー走査とマスクレス蒸着による数十ミクロンレベルの微細メタルパターンに成功した。一方で、フォトポリマー膜では低分子であるジアリールエテン膜とは異なり、膜厚が数百ナノメーターレベル以下の薄い膜となると、蒸着選択性が発現しにくくなる現象が新たに発見されたが、この原因解明については今後の課題である。
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