光により可逆的に色の異なる異性体を与える化合物をフォトクロミック化合物という。ジアリールエテンというフォトクロミック化合物を用いて、色以外の物性性能を光制御することを目的として研究を進めてきた。ジアリールエテンの薄膜に光照射すると、その開環体と閉環体の共融点以上では、光異性化に伴いそれぞれの異性体の結晶形を反映した微結晶が出現する。光照射後の膜の保持温度を上げると、結晶成長速度と結晶のサイズが大きくなることが確認された。最初に見出した超撥水性をしめす誘導体において、紫外光照射後、その化合物の共融点、30℃で膜を保持すると超撥水性を示すまで15時間を要した膜は、50℃ではわずか1.5時間で超撥水性の基準である水滴接触角150°に達した。 一方、超親水性を発現する誘導体の探索に力を注ぎ、新たなジアリールエテン誘導体の探索を行ってきた。ジアリールエテンに極性官能基であるカルボン酸を導入すると、分子間水素結合を形成し、融点、共融点が上昇したのみで超親水性を示さなかった。融点が上がると、光照射後の保持温度を高くしなければならず、ジアリールエテン閉環体の熱的な開環反応が見られるまでになった。そこで水酸基を複数もっ誘導体を合成したが、これは水に溶解した。 続いて、ジアリールエテンを非対称構造にすることで融点、ひいては共融点を下げ、さらにスルホンの導入により分子の極性を上げた誘導体を合成した。この化合物の開環体を溶液キャスティングにより膜を作成すると、膜表面に三角形の階段状に凸凹が見られ、水滴の接触角は150°付近を示した。これに室温で紫外光を照射すると膜表面は、共融状態になり膜は平らになった。この時、水滴の接触角は70。付近まで小さくなり、親水性側に偏ることを見出した。 この分子構造を基本骨格とし、最適な分子構造の探索、結晶成長、接触角変化の応答時間の温度効果などを同様に検討している。
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