光駆動分子機械のひとつとして、分子内回転を完全にかつ可逆的に紫外線と青色光でON-OFFできる分子ブレーキを世界で初めて合成することに成功した。 ブレーキは、マクロな世界での自動車においてアクセルと同様に重要な機械であるのと同様に分子の世界でも重要である。これまで分子内の回転運動を光で可逆的に制御することを目指した研究はいくつかあったが、いずれも回転を止めたり動かしたりを完全に制御することはできず、最もうまく止めた場合でも3回転/秒の回転運動を許していた。従来の研究では、化合物の設計にも問題があったが、回転運動の検出にNMRの手法を用いていることから数回/秒以下の遅い回転は検出することが難しく、完全に止まった状態であることを証明することができなかった。今回、完全に回転が止まった状態を「ラセミ化反応が起こらないこと」で証明する方法を新たに提案した。実際に光に応答して構造変化してブレーキとして働くアゾベンゼンと回転部位として働くナフタレンを適当なスペーサー分子鎖で環状に結合した面不斉化合物を新規にデザイン、合成した。本化合物では、アゾベンゼンがトランス構造を有するときには面不斉基づく鏡像異性体が安定に存在し、キラルカラムを用いて光学分割することができた。一方で、シス体へと光異性化反応を起こすとナフタレンが回転することをラセミ化反応が起こることから明らかにした。すなわち、ナフタレン部位の回転が起こる状態と完全に止まった状態を光でスイッチできることを示した。今後、分子自動車の部品として組み込んだり、機械的ねじりや円偏光等の物理的な不斉場を認識するキラル場センサーとして利用することが期待できる。
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