計画研究
微生物の全ての遺伝子の機能を知ることは困難だが、この原因の一端はそれら遺伝子が周囲の生物との相互作用がある場合にのみ発現することにある。また、複合生物系内では、遺伝情報の交換が頻繁に生じ細胞機能も変化する。こうした複合生物系ならではの機能を同定することは、微生物ダークマターの実体の理解に必須である。本研究では、ポストコッホ技術を駆使して、集団内で個々のメンバーが担う複合系内ならではの新規機能を発見し、関連する遺伝子の機能を同定することを目的とする。本年度は、モデル圃場を含む複数の環境試料からピレンなどを炭素源としたスクリーニングを行い、相互作用の発見・解析を行うための材料となる環境汚染物質分解菌群を取得した。また、菌群を構成するメンバーが有する分解能力を評価する方法としてフローサイトメーター、ラマン分光解析、マイクロ培養デバイス、マイクロ流路デバイス、マイクロドロップレットの使用方法について検討した。また同じ環境試料から、微生物間での遺伝子水平伝播に寄与しうるプラスミドを、その接合伝達能を指標としたキャプチャリングによって収集した。その結果、IncP群、PromA群プラスミドを中心とした複数のプラスミドを得ることができた。また、得られたプラスミドのうち、新規性の高かったpSN1216-29について、プラスミドと種々の細菌染色体双方の全塩基配列の特徴から、その宿主域を予測し、実験によって明らかにした宿主域と比較した。上記と平行して、接合伝達直後に受容菌の細胞機能がどう変化し、「プラスミドを持つ」状態にどう適応するのかを解析するためのフローサイトメーターによる分取・解析系を確立した。さらに、ラマン散乱を利用してプラスミド保持株を特異的に補保持株と見分ける方法を検討した。
2: おおむね順調に進展している
環境汚染物質を分解するという機能を有する機能性微生物集団を得ることに成功し、それらを構成するメンバー間の特異的相互作用を解析するためのポストコッホ技術の適用方法について検討を開始した。いくつかの技術については、適用するための予備実験をほぼ終了し、2020年度から目的の解析を実施できる体制を整えることができた。遺伝子の水平伝播についても、従来の培養依存的な解析をフローサイトメーター、ラマ分光解析、マイクロ流路デバイスのポストコッホ技術を利用する方法論にどの様に取り替えるかをほぼ決定することができ、解析を開始することができた。2020年度もこれらの解析を継続することで、計画しているメニューを計画通り、あるいは、より早い進捗で研究を進めることができるものと考えられ、「概ね順調に進捗している」と判断した。
まず、モデル圃場をはじめとする環境試料から集積したピレン等を分解する微生物群衆を材料に、A01各計画班と公募班のポストコッホ技術を用いて相互作用解析を行う。特に、ピレン分解菌群については、ラマン散乱を利用した代謝の分担の評価や、マイクロドロップレットを用いた各種メンバー間の相互作用の実体解明を先行して実施する。上記から得られた分解菌群がどのように形成されたのかを知るために各メンバーの全塩基配列を解読後、可動性遺伝因子を探索すると共に、その伝達様式、本来の宿主細菌の同定を行う。これらの過程では、公募班との共同研究によるポストコッホ技術を利用しつつ、実験・計算の双方を用いて明らかにする。また、植物(根圏)の存在の有無によって細菌間の遺伝因子の交換の生じやすさを比較する実験系も構築する。接合伝達直後の細胞分取と機能解析については、フローサイトメーターとデバイスを用いて、プラスミドという遺伝因子が細胞にどう影響するのか、その後の培養でどの様に適応が進むのか、これらの過程は一細胞レベルでどう異なるのかを明らかにする。さらに、接合後の細胞検出にラマン散乱を利用できることはほぼ証明されているが、2020年度はA01-2班とも協力してラマン散乱により検出したターゲット細胞を一細胞レベルで分取する方法の確立を行う。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件)
Microorganisms
巻: 8 ページ: 291~291
https://doi.org/10.3390/microorganisms8020291
Microbiology Resource Announcements
巻: 8 ページ: e00231-19
DOI: 10.1128/MRA.00231-19
巻: 8 ページ: 26~26
https://doi.org/10.3390/microorganisms8010026