研究領域 | 超地球生命体を解き明かすポストコッホ機能生態学 |
研究課題/領域番号 |
19H05686
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野尻 秀昭 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (90272468)
|
研究分担者 |
新谷 政己 静岡大学, 工学部, 准教授 (20572647)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 微生物間相互作用 / 複合系 / 環境汚染物質 / 分解菌 / プラスミド / 接合伝達 / ドロップレット / ラマン散乱 |
研究実績の概要 |
疎水性が高い芳香族化合物を炭素源として分解生育する菌群の取得を継続したが、その過程で、基質の結晶表面で生育する分解菌群を集積する手法を顕微鏡技術と培養技術を融合させて開発した。上で得た分解菌群中の相互作用を検出・機能解析する手段としては、低分子量多環芳香族炭化水素(PAH)に適用可能なw/o型マイクロドロップレット技術、高分子量PAHにも適用可能なゲルマイクロドロップレット技術を確立した。これらは培地への溶解度が低い疎水性基質に適用可能なドロップレット技術という点で新規性が高い。さらに嫌気性ベンゼン分解菌群に利用可能なゲルドロップレット技術を開発した。また、クローナルな分解菌細胞間でも分解力が揺らぐ様子を一細胞ラマン分析で検出することに成功した。 一方、環境試料から微生物間の遺伝子交換に寄与する可動性遺伝因子(プラスミド)を、接合伝達能を指標としたキャプチャリングで収集し全塩基配列を解読した。その結果、IncP群やPromA群の新たな亜群に属するプラスミドを複数得ることに成功した。また、エマルジョンドロップレットを利用し当該プラスミドの宿主情報の取得を試み、IncP群については再現性ある結果を得ることに成功した。合わせて、情報科学の手法で予測したIncP群、PromA群での亜群の違いによる宿主域の違いを接合実験により実証した。さらに、外来遺伝子の安定的保持に重要な代謝機能制御機構を明らかにし、その状態へと適応する過程をフローサイトメーターを鍵技術として解析した。その結果、一次代謝・エネルギー代謝・重金属イオン代謝などが経時的に変化する様子の検出に成功した。さらに、ラマン散乱を利用してプラスミド保持株を非保持株と見分けることができることを証明した。 また、土壌の植生の違いと細菌間の遺伝因子交換頻度の関係を評価する実験系を構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
疎水性環境汚染物質を分解するという機能に注目して、その解析に資するポストコッホ技術の開発を領域内外の研究者と実施した。疎水性物質(炭素源)の与え方の最適化に苦労したものの、従来の液体・固体培養をメインツールとした解析とは一線を画する分解菌群の取得・解析方法の確立を行うことができ、予想より早期にサブポピュレーションの機能解析(相互作用解析)に移行することができた。ドロップレット技術とラマン散乱の利用については、領域内の研究者と共同で開発することができ、特に、培地への溶解度が低い疎水性基質をドロップレット培養で利用する系の構築、ラマン散乱を利用した代謝能力の評価については新規性が高い結果を得ることができた。また、嫌気性微生物は生態系で重要であるものの、実験では酸素に触れることを避ける必要があり取り扱い手法には制約も多い。本研究では、簡易のゲルドロップレット技術を嫌気性コンソーシアの解析に利用する目処を付けることができ、重要なブレークスルーとなった。この成功に引き続き、現在、マイクロ流体デバイスを利用して細菌集団を含むゲルドロップレットをハンドリングする技術開発も開始している。 遺伝子の水平伝播についても、フローサイトメーター、ラマン散乱解析を従来の培養を介する解析やRNA-Seq解析などと組み合わせることで、新規のプラスミド・宿主の発見や宿主のプラスミド適応メカニズムの発見に繋げることができた。これらに引き続いて、マイクロ流路デバイスを利用した接合伝達直後の細胞検出・取得の方法論開発を、想定より先行して進めることもできた。 このような状況から、計画しているメニューとその関連技術開発をほぼ計画通り(一部はより早く、広範な対象に広げて)進めることができているものと考えられ、「概ね順調に進捗している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
各種ポストコッホ技術を用いた各種環境汚染物質分解菌群内での相互作用解析を継続する。単離した菌群を構成するメンバーの解明と各メンバーの役割を種々の機能解析を組み合わせて調べ、新規の相互作用・機構の発見を目指す。なお、マイクロドロップレットの利用においては、研究のさらなる効率化のために、興味深い性質を示したドロップレットの分離をより効率的に行うことが望まれる。また、嫌気性菌群用ゲルドロップレット技術では、さらにゲルドロップレット取り扱い技術(マイクロ流体デバイスの利用)の開発が必須である。2021年度は、これらの技術開発も早期に終了できるよう努力する。 複合微生物系内での遺伝情報の水平伝播に関しては、分解能・薬剤耐性能などの特殊能力が進化・誕生する新規機構の発見のために、2020年度までの解析をさらに継続する。この際、フローサイトメーター、マイクロドロップレット等のポストコッホ技術の利用方法をさらに改善し、より効率的な研究遂行を目指す。また、水平伝播によって受け取った遺伝子(群)の安定な保持に関しては、2020年度からの機構解明を継続すると共に、外来遺伝子の受容に適応する過程のフローサイトメーターを用いた解析を継続し適応過程をより詳細に明らかにする。また、マイクロ流体デバイスを利用した接合伝達検出・解析系も開発する。 一方、微生物と高等植物の相互作用に関連して、2020年度に構築したモデル植物根圏を利用して、プラスミドの接合伝達が生じやすくなるかどうか、ポストコッホ技術を導入しつつ検証する。また、新規な微生物-植物間相互作用をポストコッホ技術で明らかにする実験系構築を開始する。
|