研究領域 | マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解 |
研究課題/領域番号 |
19H05713
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
吉本 光希 明治大学, 農学部, 専任教授 (40399316)
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研究分担者 |
海老根 一生 基礎生物学研究所, 細胞動態研究部門, 助教 (90590399)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | オートファジー / 液胞 / 植物 / オルガネラ / 環境ストレス |
研究実績の概要 |
植物は一度大地に芽生えると移動することができないため独自の環境応答機能を進化させてきており、他の生物とは一線を画していると考えられる。本研究計画では、独立栄養生物であるが故に存在する様々なタイプのオートファジー機構の解明、およびそれらによる植物の高次機能発現の解明を目的とし、その成果をもとに、植物オートファジーの環境応答機能としての重要性を理解して他の生物と比較しながら植物の巧みな生存戦略の一端を紐解くことを目指す。今年度は以下の課題を推進した。 ①カルス形成における植物マクロオートファジーの役割 野生型植物およびマクロオートファジー不能植物を発芽後一週間暗処理し、伸長した胚軸をナイフで切出し、障害応答性カルス形成頻度およびサイズを比較した。マクロオートファジー不能植物の胚軸葉側では、炭素欠乏時にカルス形成頻度・サイズともに低下すること、胚軸根側では、炭素欠乏だけでなく窒素欠乏でもカルス形成頻度・サイズが低下することを見出した。 ②栄養欠乏下における植物マクロオートファジーの役割 亜鉛 (Zn) 欠乏環境下において、植物が細胞内自己分解システムであるオートファジーを用い、生体内のZnリサイクル効率を上昇させていることを発見した。Zn欠乏下では、オートファジー活性が上昇し、細胞内のタンパク質や細胞小器官など自己成分が分解された。この分解によりタンパク質に結合した、あるいは、細胞小器官に蓄積していたZnが遊離Zn2+イオンとして取り出され、必要箇所に再供給されることを見出した。また、オートファジー欠損変異体植物のZn欠乏症状を解析することで、Znのリサイクル効率を上昇させる仕組みが植物のZn欠乏症状 (クロロシス) の抑制に重要であることを証明した(Shinozaki et al., Plant Physiol., 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
栄養欠乏下における植物マクロオートファジーの役割について、特に亜鉛欠乏に着目して行った研究では、オートファジーが生体内のZnリサイクル効率を上昇させていることを発見し、それが、植物のZn欠乏症状 (クロロシス) の抑制に重要であることを証明しており、既に原著論文を発表しているため。
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今後の研究の推進方策 |
カルス形成における植物マクロオートファジーの役割について、マクロオートファジー不能植物の胚軸で、障害誘導性カルスの形成頻度・サイズが特に炭素飢餓下で低下することを明らかにしたが、その原因についてさらに精査する。炭素源が枯渇すると、通常のTCA回路を経るミトコンドリア呼吸経路ではなく、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を基質としたミトコンドリア代替経路によるATP産生が起こることが報告されている。炭素飢餓培地にカザミノ酸を添加し、マクロオートファジー不能植物のカルス形成頻度・サイズが回復するかを調べることで、マクロオートファジーを介したアミノ酸再供給によるエネルギー産生がカルス形成に重要であることを明らかにする。
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