研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05717
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原田 慈久 東京大学, 物性研究所, 教授 (70333317)
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研究分担者 |
瀬戸 秀紀 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (60216546)
池本 夕佳 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光・イメージング推進室, 主幹研究員 (70344398)
菱田 真史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70519058)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 水素結合構造 / 放射光軟X線分光 / 放射光赤外分光 / 中性子準弾性散乱 / テラヘルツ分光 / 第二水和圏 / ずり流動場 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の研究を推進した。 ①つなぐ:A01-1加藤の機能性イオン液晶膜の細孔(直径1nm以下)中に取り込まれる水を軟X線発光分光で解析し、細孔のサイズ、細孔内の電荷の影響に加えて、取り込まれた水の水素結合構造がイオンの透過性に影響することを見出した。またA01-2武田のカルバゾール誘導体を赤外分光で分析し、水吸着に誘起された分子変形で発光色が変化することを明らかにした。 ②はたらく:A03-2 田中賢の生体適合性の高いPMEA誘導体、PMMA、PEGと低いPBAについて、中性子・放射光赤外、放射光軟X線分光で界面水の構造・運動解析を行った結果、バルク水と同等の速く動く水と交換する遅い水(不凍水)が存在しており、その分布が高分子の凝集挙動や中間水の形成挙動に影響することが判明した。テラヘルツ分光より、付着するタンパク質の安定性が第二水和圏の弱く吸着した水の有無に依存することを見出した。またリン脂質表面をモデルにA02-2樋口のMDシミュレーションと合わせて解析し、親水基まわりの水の運動性の起源を解明した。実用の高分子は凝集などにより解釈が難しくなるため、A02公募 林の自己組織化単分子膜を用い、表面力計測と合わせて界面水の状態解析に取り組んだ。 ③つくる:A03-3高島のシクロデキストリンとアクリルアミドからなる親水性高分子材料の破壊エネルギーが含水で高くなる原因を放射光赤外で調べた結果、水の添加により可動性架橋点が形成されることが判明した。一方A01-1加藤のヒドロキシアパタイト結晶を凝集させたナノロッドがずり流動場により配向する要因を流動場下中性子小角散乱(Rheo-SANS)実験で調べた結果、ずり流動場は粒子配向に寄与するとともに、ナノロッド凝集体の形成と破壊の効果を及ぼすことが分かった。また、構造変化が粘弾性の特徴的変化に関係していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の各項目は、ほぼ予定通りに進展している。理由を以下に列挙する。 (1)機能性イオン液晶膜、液晶性コロイド、外部刺激応答分子、リン脂質モデル分子、シクロデキストリンとアクリルアミドからなる親水性高分子材料の解析結果について論文化が進んだ。 (2)界面水の材料機能への関わりについて、次に示す知見が得られた。①放射光軟X線分光により、界面水が持つ水素結合構造が水圏での分子認識に使われる可能性を示した。現在水圏シミュレーションと合わせて実証を行っている。②中性子を用いて、材料と一緒に動く遅い水(不凍水)の存在割合を定量し、かつ速い水(自由水)と交換する様子を明らかにできた。③テラヘルツ分光と水圏シミュレーションの組み合わせにより、中間水の状態が、溶質分子によって大きく異なることが示された。またA03との共同研究から、中間水の状態が材料機能(タンパク質安定性)に関わる知見も得られた。 以上のように、公募研究を含む研究項目を跨ぐことで、水の学理(中間水や不凍水の統一的理解)をベースにした材料機能の起源解明に迫ることができている。 (3)測定技術で進展があり、共同研究を加速する準備が整った。湿度/温度調整・延伸状態での赤外顕微分光を、近赤外から遠赤外の一部まで拡張した他、全反射赤外測定やラマン散乱分光も可能となった。軟X線発光分光の検出系を改良し、より高精度の測定が可能となった。 (4)一方で、予期せぬ結果が得られたため、一部方針を転換した。生体適合性高分子は界面水の信号を捉えることで機能理解が進むことを期待したが、水との相互作用で不均一な凝集が起こる系が多く見つかった。そこで水の基礎学理を固めるため、均一性が担保される自己組織化単分子膜の研究に着手した。単分子膜上に均一に蓄積してゆく水分子の状態を捉えることによって、水と高分子の相互作用をより精度よく特定できるようになっている。
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今後の研究の推進方策 |
水と材料の相互作用の素過程解析を通じた機能発現の学理の構築を目指して、昨年度に引き続き、以下の6つの項目について研究を進める。(1)A01-1 加藤のイオンチャネル内の水とイオン機能部位の構造・運動を捉えるために、放射光軟X線・赤外分光を用いた水の構造解析を行う 。A02-2 鷲津の水圏シミュレーションによる解析結果と合わせて考察し、イオン選択的透過機能に対する水の構造・運動、官能基の電荷、孔サイズ等の役割を明らかにし、最適な機能性イオン液晶膜の設計にフィードバックする。(2)A03-1 田中求のファイトケラチン着想型高分子とCdの溶液中反応を放射光赤外分光でその場解析し、分子認識能を高める材料設計にフィードバックする。(3)A03-2 田中賢の生体適合性高分子材料表面および界面水の構造・運動を放射光軟X線・赤外分光、中性子散乱、テラヘルツ分光およびAFMを駆使して解析し、界面水の構造・運動の抗付着性への関わりを解明し、高性能設計にフィードバックする。(4)A03-3 高島の超分子ヒドロゲルの放射光軟X線・赤外分光、テラヘルツ分光により、ホスト・ゲスト分子の配向、水和構造を抽出し、水分量に依存する接着メカニズムを明らかにする。(5)生体適合機能材料のプロトタイプとしてPEGの先端計測を行い、水圏シミュレーションと合わせて水・材料の構造・運動を精密に解析する手法を確立する。(6)各先端計測手法の中に「水の流れ」を計測パラメータとして取り込み、水圏シミュレーションが明らかにする「水の流れ」と「水・材料間の相互作用」の相関解析を組み合わせることにより、上記1~5に示した種々の水圏機能材料の機能に与える影響について考察し、材料設計にフィードバックする。 (1)~(6)の素過程解析を通じて水と材料の相互作用および水の役割を明らかにすることにより、水圏機能材料の機能発現の学理を構築する。
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