研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
19H05745
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
古関 明彦 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (40225446)
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研究分担者 |
遠藤 高帆 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 技師 (40384862)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | ポリコム群 / クロマチン複製 / DNA複製 / 細胞運命決定 |
研究実績の概要 |
ヌクレオソーム再構築メカニズム、ヴァリアントヒストン、及び、ポリコム群再構築過程の間の機能的なリンクがあるかという点について、Enhancer of Polycomb複合体とPCGF1-PRC1複合体に焦点を絞った研究を継続した。Enhancer of Polycomb複合体は、複製フォークにPCNAと結合しながら存在し、バリアントヒストンH2A.ZとそのシャペロンであるANP32E、娘DNA鎖のメチル化に関わるDNMT1とNP95(UHRF1)、ヒストンメチル化の関連因子であるポリコム群タンパク質(SUZ12, EZH2など)などを新生ヌクレオソームにロードし、複製直後のヌクレオソームの再構築に貢献する結果、ヘテロクロマチン領域とユークロマチン領域の境界を規定し、ポリコム群が機能する領域を保護している可能性を明らかにした。また、PCGF1-PRC1については、昨年度までに複製フォーク近傍に局在して作用している可能性を見出し、特に血球系前駆細胞においてPCGF1-PRC1が複製フォーク近傍へのクロマチンリモデリング因子SWI/SNF複合体の接近を阻害することで、複製フォーク通過直後のクロマチン複製を最適化し、ミエロイド関連遺伝子の異常発現を抑制する事で、血球前駆細胞の多分化能を維持する可能性を見出していたが、今年度は、このSWI/SNF複合体との競合作用が複製期に特異的なものであり他のフェーズでは起こらないこと、複製期に異常接近するSWI/SNF複合体を薬剤を用いて阻害すると、PCGF1-PRC1欠損時の複製フォーク通過直後のクロマチン複製の異常が部分的に回復する事を示し、複製フォーク近傍でのPCGF1-PRC1の機能とその生物学的意義について、より直接的な証拠を得、国際学術誌に採択されるに至った(Takano J et al. Nature Communications. 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文が一報受理されたが、もう一報採択される可能性があったため
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今後の研究の推進方策 |
Enhancer of Polycomb複合体が、クロマチン複製に必須の因子であることは明らかになったが、これらがポリコム群による抑制ドメインの複製に寄与する機構は未知である。このギャップを埋めるものとして、DNMT1/NP95 (UHRF1)との相互作用ならびにクロマチン複製を介したゲノム三次元構造への影響の可能性を考え解析を進めている。実際、DNMT1/NP95 (UHRF1)は、複製フォーク上でDNAメチル化の維持に寄与するのみでなく、ヒストンにリンクする様々なクロマチン制御に寄与することを見出しており、また、Enhancer of Polycomb複合体の欠損によるクロマチン複製への影響はHiC解析で同定したA compartmentに最も強く現れる事を確認している。 そして、SWI/SNF複合体とポリコム群は文脈に応じて、競合あるいは協調することが知られているが、造血前駆細胞の複製フォーク近傍においてはPCGF1-PRC1複合体がSWI/SNF複合体と競合し、その結果クロマチン複製を制御している事を見出した。今後はこの複製フォーク近傍でのPRC1の標的因子との競合作用のモードについて造血系のみならず複数の細胞種で解析を進めていく予定である。特に、我々は、PRC1の酵素活性の作用点がクロマチン上のみではなく、標的タンパクそのものをポリユビキチン化し、プロテアソーム系に依存した分解を促すことを見出している。したがって、フォーク近傍のPRC1は標的因子のユビキチン化を介した分解促進作用により、競合因子の新生鎖上への過剰接近を防ぎ、複製後の非ゲノム情報の維持に寄与しているのではないかという仮説をユビキチロームなどの手法を用いて検証していく予定である。
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