研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
19H05752
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青木 不学 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (20175160)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | 遺伝子発現プログラム / 初期胚 / 全能性 / クロマチン構造 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
受精後の1から2細胞期にかけて著しい遺伝子発現パターンの変化が起こるが、その調節機構として緩んだクロマチン構造から締まったものへの変化の関与が考えられる。また、クロマチンを構成するヒストンには多種の変異体が存在し、これらがクロマチン構造に関わっていることが知られている。これまでの研究で、リンカーH1については一部の変異体(H1foo、H1a)のみが卵および受精直後の胚で多く発現していることを明らかにした。さらに、H1fooをノックダウン(KD)することにより、1細胞期胚ではクロマチン構造が締まり、遺伝子発現に異常が生じることを明らかにした。しかし、一方で受精前の卵でもすでにクロマチン構造が緩んでいることが分かった。すなわち、受精前の段階ですでに受精後の遺伝子発現に備えてクロマチン構造を変化させていることが考えられた。そこで、本年度は卵におけるH1fooの機能解析を行った。まず、成長卵でH1fooをKDして、代わりに卵および1細胞期胚でその発現がほとんど見られない体細胞型のH1変異体を発現させると卵成熟に異常が起こりその後の発生に影響が見られた。しかし、H1aを発現させた場合はこれらの異常は生じなかった。以上の結果は、受精後の発生に必要な緩んだクロマチン構造がH1fooおよびH1aにより受精前に準備されていることを示唆するものである。 また、1から2細胞期にかけての遺伝子発現パターンの変化には、転写因子も関わっていることが考えられ、その1つとしてDUXが重要な働きをしていることが示唆されている。しかし、DUXをノックアウトしても発生にほとんど影響しないことが報告されている。そこで、DUXにその構造が類似したタンパク質がDUXの機能を相補していることを考え、その候補を探索したところDUXBLが見つかり、その発現を1細胞期で調べたところ高いレベルでの発現が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、遺伝子発現の調節に関わるクロマチン構造と転写因子の両面からそれらの候補となる因子についての解析を行った。 その結果、概要の欄で記したように、クロマチン構造に関しては、その緩みに関わっていると考えられ、卵および1細胞期胚で多く発現しているH1fooが卵形成の過程で機能してそれが受精後の発生に影響を与えることが明らかとなった。これにより受精直後の特異的な遺伝子発現のための準備が受精前の卵で進行しているという新たな可能性が示されたという点で、研究上の大きな進捗があったと考えられる。 また、転写因子による調節に関しては、DUXの機能を相補している因子の候補としてDUXBLを発見できたことで今後の研究の発展が期待できるものと考えられる。すなわち、大きく注目されてきたDUXについて、近年、そのノックアウトが発生に影響を及ぼさなかったという報告があったことから、1細胞期から2細胞期への遺伝子発現プログラムの進行を調節するメカニズムの解明が暗礁に乗り上げていた。しかし、DUXを相補する因子としてDUXBLの関与を調べることで、今後の研究の進展が期待される。 したがって、本研究プロジェクトは、全体としてはここまでおおむね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
リンカーヒストンH1fooによるクロマチン構造の調節に関しては、H1fooをノックダウンしても特に異常が見られなかったことから、H1fooと同様にクロマチン構造を緩める働きがあり、かつ卵と1細胞期胚で多く発現しているH1aがその機能を相補することが考えられる。そこで、H1aのノックアウトマウスを作成し、そこから得られた卵あるいは1細胞期胚でH1fooをノックダウンして両者が欠損することによるクロマチン構造および遺伝子発現への影響を調べる。 また、転写因子に関しては、DUXBLが実際に受精後のプログラムの進行に関わっているかどうかを調べるために、DUXBLの過剰発現およびノックアウト胚におけるトランスクリプトーム解析およびクロマチン構造に関する解析(FRAP、Hi-Cなど)を行う。また今後、DUXとDUXBLのダブルノックアウト胚における上記の解析も試みる予定である。
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