研究領域 | ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05820
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
吉田 亮 統計数理研究所, データ科学研究系, 教授 (70401263)
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研究分担者 |
岡本 ゆかり (桂ゆかり) 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (00553760)
上田 那由多 (竹森那由多) 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任助教 (10784085)
野澤 和生 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (00448763)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | マテリアルズインフォマティクス / 準結晶 / データベース / 電子構造計算 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
初年度は基礎データの収集と共同研究体制の構築、機械学習等の基盤技術の整備を重点的に推進した。当該年度の達成事項は、以下の通りである。 (1) Materials Project 等の従来の結晶系データベースに加え、領域内の準結晶関連のデータセットを抽出・整理した。また、過去に出版された論文中のグラフから準結晶や近似結晶を含む多様な化合物の電気的特性の実験データを取得した。さらに、結晶構造データベースの3万種類の安定化合物について、配位構造や角度などの大規模局所構造データを取得した。 (2) オープンソースプラットフォームXenonPyに機能拡張を施し、化学組成から準結晶らしさ(準結晶・近似結晶・通常の結晶)を判断する機械学習の予測モデルを構築した。既存物質に対する予測性能を検証したところ、任意の組成に対する準結晶・近似結晶・結晶のクラスを約90%の精度で分類できることが明らかになった。同モデルを用いて3-4元系金属化合物の全組成に対して仮想スクリーニングを実施し、準結晶の候補組成を抽出した。さらに、バンドギャップや磁性等を予測する機械学習モデルを構築し、有望な候補組成の絞り込みを行った。 (3) 準周期タイリング上での超伝導状態を調査し、その比熱の跳び がBCS理論での値よりも15%小さくなり、Al-Mg-Zn準結晶での実験値と良い一致を示すことを明らかにした。この成果については現在国際学術誌に投稿し、査読中である。 (4) Bi, PbがAg-In-Yb準結晶5回表面に形成する吸着構造を第一原理計算により調べた。走査型電子顕微鏡(STM)実験によりBiはPbと異なる吸着過程を示すことが示唆されていたが、これがSTMでは観測されない吸着層の影響によるものであることを見いだした。Au-Al-Tb近似結晶表面について、A01班と共同研究を開始するにあたり、予備的な計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 機械学習用のデータセットとして、過去35 年間の論文から準結晶と近似結晶のリストならびに領域内研究者が保有する実験データを収集した。また、独自開発のStarrydata webシステムを用いて、電気抵抗率の温度依存性などの実験データを収集し、データベースとして共有した。結晶構造データベースの3万種類の安定化合物について、配位構造や結合角などの大規模局所構造データを取得し、特異値分解を施すことで独自の元素記述子を作成した。この記述子を用いて、化学組成や結晶構造から化合物の安定性を予測する機械学習プログラムを開発した。 (2)機械学習による仮想スクリーニングの第1ラウンドを実施し、3-4元系金属化合物の候補組成リストを作成した。領域内の研究グループと連携し、準結晶の予測モデルの包括的な性能検証を実施し、スクリーニングモデルとしては十分に有望な予測精度を達成していることを確認した。また、いつくかの基礎物性(形成エネルギーやバンドギャップ等)の予測についても、1次スクリーニングの用途としては十分な精度を有する機械学習モデルを開発できた。これらの物性予測モデルをXenonPyの訓練済みモデルライブラリとして公開した。現在、実験系グループによる候補組成の絞り込みと包括的な実験検証の準備を行っている。 (3) 高次元バンド計算の開発を行うための環境整備などの準備を行った。 (4) STMで観測されない吸着層の影響という新しい知見は、Biの吸着構造を理解する上で重要な発見であったと考える。新たに開始した共同研究でも、成果に結びつくデータが出始めている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 論文から収集した実験データを解析し、ハイパーマテリアルと通常の結晶の間の電気的特性の違いを調べる。まずは、電気抵抗率の温度勾配に着目した研究を行う。また、ハイパーマテリアルが形成する化学組成において、許容される配位構造や結合角の特徴を解析し、化学組成からハイパーマテリアルの生成可否の予測を試みる。また、引き続き、電気抵抗率や磁性、熱起電力、熱伝導率等の基礎物性に関する文献情報の抽出を行い、物性レベルのハイパーマテリアルの特徴の解明につなげる。 (2) 実験系計画班と共同で候補組成の網羅的な合成検証を実施し、新規の準結晶を発掘する。また、これから追加されるデータを用いてモデルの予測精度を改善し、次のステージの実験に移行する。このプロセスを繰り返しながら、半導体準結晶、強磁性準結晶、表面単元素準結晶等の発見を促進する。実験計画法(ベイズ最適化等)の実装と領域内の実験系研究者らとの循環システムの構築が次年度以降の課題となる。 (3) 第一原理計算に基づくハイパーマテリアルの電子・フォノン状態及び物性推算技術の開発を行う。本年度は特に、拡張Blochの定理と拡張Brillouinゾーンを用いた高次元周期結晶の電子構造計算プログラムを開発する。 (4) 昨年度に引き続き、第一原理計算によりAg-In-Yb準結晶5回表面上におけるBiおよびSb単元素準結晶薄膜の成長過程を調べる。また、Au-Al-Yb近似結晶表面について第一原理構造緩和計算を行い、A01班で行われるSTM実験と比較して安定な表面構造とその起源を明らかにする。
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