研究領域 | 非ドメイン型バイオポリマーの生物学:生物の柔軟な機能獲得戦略 |
研究課題/領域番号 |
21H05278
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
泊 幸秀 東京大学, 定量生命科学研究所, 教授 (90447368)
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研究分担者 |
森本 悟 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00816952)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | Heroタンパク質 / 天然変性タンパク質 / 神経変性疾患 / 非ドメイン型バイオポリマー / ALS |
研究実績の概要 |
ALSなどで観察されるTDP-43が形成する病原性の凝集体の形成が、Heroタンパク質によって強力に抑制されるというこれまでの研究成果に基づき、TDP-43の2箇所に特異的に蛍光色素を組み込み、一分子Forster共鳴エネルギー移動(FRET)を用いて、Heroの有無によるTDP-43の一分子レベルでの構造変化を捉えることに成功した。これにより、HeroがTDP-43の全体構造を大きく開く作用を示すことが明らかとなった。また、家族性ALS患者由来の病原性点変異を持つTDP-43変異体を使用し、野生型と比較すると、変異体はよりコンパクトな構造を示すことが確認された。さらに、CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーを活用したスクリーニング(初期段階はゲノムワイド、次段階はカスタムライブラリーを使用した中規模スクリーニング)を通じて、細胞機能の維持に不可欠な超天然変性タンパク質群を包括的に同定し、いくつかの代表的なタンパク質についての機能解析を開始した。また、センダイウィルスベクターを使用した新しい迅速な運動ニューロン誘導方法を採用し、健常者及びALS患者由来のiPS細胞から運動ニューロンを安定的に作製することに成功し、レンチウィルスやリポフェクションを通じてタグ付けされたHeroタンパク質を細胞内に導入し、その挙動を評価した。さらに、レンチウィルスを利用したトランスフェクションの効率と細胞毒性を改善するためのコンストラクトの改良およびセンダイウィルスベクターを用いたターゲットタンパク質の導入方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一分子FRET解析については、当初の予定通り研究は順調に進展した。また、細胞機能維持に必要な超天然変性タンパク質群を網羅的に同定するため、当初、ゲノムワイドなCRISPRスクリーニングを行っていたが、ノイズが多く、正確な解析が難しいことが判明したため、ゲノムワイドスクリーニングを元に、中規模なカスタムライブラリを作成し、2段階目のスクリーニングを行った結果、細胞機能維持に必要な新規超天然変性タンパク質群を同定することに成功し、代表的ないくつかのものについて機能解析を開始するに至った。また、iPS細胞を用いた実験についても、レンチウィルスに搭載するコンストラクトの改良、およびセンダイウィルスべクターを用いた標的タンパク質の導入法を開発を行い、細胞毒性を低減することに成功した。以上のことを総合すると、概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
一分子FRET解析において、TDP-43の凝集を抑制する既知の古典的分子シャペロンHsp40と、Heroタンパク質の影響を比較し、TDP-43の一分子レベルでの立体構造に及ぼす全体的な効果を調査する。加えて、一分子FRETを用いて、時系列にわたるダイナミクスを詳細に分析する。一分子レベルおよび細胞レベルで、Hsp40とHero11がTDP-43に及ぼす影響の類似点と相違点を明確にする。新たに同定された細胞機能維持に重要な超天然変性タンパク質群の中から特に注目すべき挙動を示すものを選び、それらの詳細な機能解析を進める。さらに、患者由来のiPS細胞だけでなく、TDP-43に変異を持つALSモデルマウスを使用し、体系的にHeroタンパク質の影響を調査する実験系を整備する。
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