研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
22122005
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
榎本 秀樹 独立行政法人理化学研究所, 神経分化・再生研究室, 特別主管研究員 (00360511)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 腸管神経系 / 神経堤細胞 / 細胞移動 / 神経栄養因子 / 血管発生 / タイムラプスイメージング |
研究実績の概要 |
腸管神経系は、神経前駆細胞が移動しながら腸管壁を全長にわたって覆うことにより形成される。申請者は、ライブセルイメージングにより、発生過程で小腸と大腸が血管を挟んで平行に並ぶ時期に、血管(腸間膜)を足場に、小腸から大腸に近道移動する前駆細胞を発見し、この細胞群が大腸神経系の主要な構成細胞であることを見出した。実験的に腸間膜を切除して近道移動を部分的に障害すると、大腸神経系の形成が遅れることから、大腸における神経形成は前駆細胞の近道移動により効率的に進行することが明らかとなった。マウスの発生過程でこの近道移動が可能な時間は、小腸と大腸が一過性に平行に並ぶ24時間(胎令10.5-11.5日)である。先天的に大腸末端で神経節を欠損するヒルシュスプルング病モデルマウスでは、近道移動するタイミングが胎令11.5日以降に遅れ、前駆細胞が腸間膜に取り残されて大腸に到達出来ていなかった。したがって、ヒルシュスプルング病の病態形成には近道移動の開始の遅延が基盤にあることが示唆された。近道移動の時期に、神経栄養因子GDNFが大腸腸管壁で認められ、GDNFの結合受容体を遺伝学的に欠損させると、前駆細胞は小腸壁外に移動することが出来なかった。また、ケモカイン受容体CXCR4の欠損マウスでは、腸管に分布する血管網の形態異常があり、近道移動する細胞が減少していることが観察された。CXCR4は近道移動する細胞には発現していなかった。以上より、近道移動には腸管壁由来のGDNF及び血管由来の因子が必要であることが明らかとなった。これらの知見をまとめた論文は、2012年9月にNature Neuroscience誌に受理された。また、その内容は各種メディア(日本経済新聞、読売新聞、サンテレビなど)に取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた解析や、イメージングに用いるマウス作製は概ね滞りなく進行しているが、一部のマウスの腸管神経系に予期せぬ発生異常が認められたため、新たなライン作製を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、血管-近道移動前駆細胞の多色ライブイメージングに取り組む。また、血管由来近道移動制御シグナルの同定のために、CXCR4欠損マウスと野生型との遺伝子発現プロファイリング比較を行う。また、近道移動の障害とヒルシュスプルング病の発症機構の解明に向けて、申請者および他グループが作製・報告したヒルシュスプルング病モデルマウス群について近道移動細胞群のフェノタイプ解析およびライブイメージング解析を行う。
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