研究概要 |
器官形成の基盤には個々の細胞の形態や機能の制御がある。したがって、マクロな器官形成現象のしくみを理解するためには、その背景にあるミクロな細胞や細胞骨格、集団としての運動ダイナミクスを理解し、そしてそれらがその上位の階層にある細胞集団としての組織・器官レベルの変化にどうつながるのかを読み解く必要がある。本研究ではこの階層を超えた制御機構のしくみを明らかにするために、神経管形成という脊椎動物の中枢神経系の根幹をなすダイナミックな形態形成運動をモデルとして、また管形成過程の観察が容易なアフリカツメガエルを用いて、細胞と組織・器官をつなぐ形態形成現象に着目して研究を進めた。本年度得られた成果のひとつは神経管形成における細胞運動と器官形成の力学的相互作用である。神経管の形態形成(管形成)の主たる原動力は神経上皮細胞の形態形成、すなわち立方体の形状からくさび型への変化であると考えられている。しかしながら、この細胞形態変化を阻害しても管形成はかなり進行することを見出した。これはニワトリではすでに報告されていたことであるが、本年度我々はその背景となる管形成の原動力の存在を直接神経系にはならない非神経外胚葉に求め、それを検証する研究を行った。その結果、上層、深層の二層からなる非神経外胚葉の上層は速いスピードで背側正中線に向かって移動しており、その際に細胞形態が変化し背腹軸方向に著しく伸長することを見出した。さらに、この上層運動の原動力は深層細胞が背側に自律的に移動しており上層は細胞接着を介して深層によって背側に牽引されていることを示した。この際、上層が深層から力学的な影響を強く受けていることをレーザー焼灼法による引張力開放実験などによって明らかにした。これらの結果により深層細胞の「動く歩道」モデルを提唱することができた(Morita,H.,Development 2012に報告)。
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