計画研究
カルシウム結合時の蛍光変化が大きい遺伝子コード型プローブGECOを用いて、脊椎動物のモデルとしてのアフリカツメガエル神経管閉鎖時の細胞内カルシウム動態を観察し、その動態と閉鎖運動に大きく寄与する神経上皮細胞の変形(細胞形態形成)との関連について研究した。その結果、細胞内カルシウム上昇と頂端側の細胞辺が短くなり頂端側の細胞表面積が縮小する頂端収縮の間には時空間的に密接な相互相関があることがわかった。また、ケージドIP3を胚細胞内に注入し、その後紫外線(UV)照射によるアンケージングでIP3を活性化させ、局所的に細胞内カルシウムを上昇させることによって、人為的に細胞表面積を縮小させることができることを確認した。これらの結果より、カルシウム動態は神経管閉鎖時の細胞変形と機能的連関があることを示すことができた。H24年度はヴァーテックスモデルを用いてカルシウムによる細胞辺変形の数理的な力学モデルを構築することに注力し、細胞辺の長さに「ゆらぎ」を生じさせることによって、安定的に表面積が小さくなることがわかった。また、実際の神経上皮細胞の観察においてもショウジョウバエの原腸形成で観察されているような細胞辺長のゆらぎと細胞表面積の一方向性の縮小を確認した。加えて、同じくアフリカツメガエル胚を用いて原腸形成において組織間に生じる力の定量化に成功し、陥入する中胚葉を先導する細胞集団が後方に連結する中軸中胚葉を牽引し、中胚葉内に引張力を生んでいること、この引張力は正常な脊索形成に必須であることなどが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
年度途中で、基礎生物学研究所・小山宏史博士の協力を得て、ヴァーテックス(Vertex)モデルを用いた解析を行った。細胞の①「面積」、②「周辺長」、③「表面張力」、それぞれの変化に弾性を与え、エネルギーの総和をVertexの関数として表すモデルを構築した。平成26度は、このモデルに、表面張力の増加と変動の両方を付加し、パルスの時空間的密度を局所的に高めることによって、組織全体の収縮にどのように影響されるかなどについて検討を行う。また、これら数理モデルから得られる情報が、実験的に観察されている一過的な細胞内Ca2+上昇や、それに連動して起こる細胞中心部でのF-アクチンの集積とどのように関連するのかなどについて検証する。とくにショウジョウバエの原腸形成期にも脊椎動物神経管形成に見られる頂端収縮が観察されていることから、それら細胞の収縮時には、一旦表面積が小さくなった細胞はその面積を安定化させるために、反発によって再び表面積を増大させることを抑止するメカニズムが存在することが示唆されている(ラチェットメカニズム)。このように、平成26年度は頂端収縮のメカニズムが、動物種や発生時期、組織の多様性を超えた器官形成のメカニズムであることを立証する研究を計画している。
今後は細胞内カルシウムのオシレーションの単位時間あたりの頻度やパターンが細胞変形(頂端収縮)にどのような影響を及ぼすのかについて、数理モデルのパラメータを新たに設定しシミュレーションを行うことによって詳細に解析する。また、実験・観察によって得られた実データをもとに数理モデルを精密化、最適化して行きたいと考えている。そのために細胞内Ca2+上昇の次に起こる事象として、細胞骨格のリモデリングに着目する。具体的にはF- アクチンや微小管の動態を、それぞれLifeAct、微小管+単結合性EB1/3の蛍光プローブでライブイメージングすることによって、画像解析からF-アクチンの細胞内局在、微小管伸長の極性、伸長度を領域別に定量するなどを試みる。また、細胞間の物理的連結を支える細胞接着分子の役割にも注目する。細胞間接着が弱まった際に、カルシウムオシレーションや集合的な細胞変形はどのように影響を受けるのかについても検証する。このように細胞骨格の再編成と細胞辺長の変化との相互相関について、および集合的細胞形態変化における細胞接着の意義について解析を進め、それらから得られる結果を数理モデル構築に還元すること計画している。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 備考 (1件)
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