計画研究
1 植物共生菌のゲノム解析:共生関連遺伝子を同定するため、アーバスキュラー菌根菌(AM菌)より分岐年代の古いEndogonales目のSphaerocreas pubescenes (共生性) とEndogone pisiformis(腐生性)のドラフトゲノム配列49.6 Mbと59.7 Mbをそれぞれ決定した。これらのゲノムからRNA-seqを用いて遺伝子を予測し、他の真菌の遺伝子群の比較解析を行った結果、AM菌と同様に共生性のS. pubescebesはprotein-protein相互作用やシグナル伝達に関わる遺伝子を多くコードしている共通性が見いだされた。また、S. pubescebesはAM菌とは異なり、caspaseドメインを持つペプチド分解酵素の遺伝子数が増加していた。外生菌根菌のホンシメジのゲノムに関しては、現在PacBioを用いて解読を進めている。2 菌根形成に関わる宿主植物の転写因子の解析:AM共生特異的に誘導される8つの転写因子の発現抑制個体を作出し、AM共生が不全な個体がいくつか得られた。その転写因子のターゲット遺伝子を同定するためRNA-seq解析を行っている。3 糖修飾を受けたCLEペプチドの分子同定から、根粒形成と茎頂メリステム形成の制御系の分子レベルでの共通性が示された。4 窒素固定細菌である根粒菌とマメ科植物との共生関係がどのように進化するのかを適応力学を用いて理論的解析を行った。その結果、共生関係の進化は窒素固定によるcostとbenefitのバランスに決定的に依存すること、および両者の効果が拮抗する条件において、窒素固定をしない「ぼったくり菌」が広く出現することが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
AM菌より分岐年代が古く、難培養性のSphaerocreas pubescenesとEndogone pisiformisのドラフトゲノム配列が解読できたのは当初の計画以上の進展であった。またマメ科植物と根粒菌の進化ダイナミクスの数理解析から、窒素固定をしない「ぼったくり菌」が広く出現することの背景が見えてきた点も予想を上回る進展である。一方で、外生菌根菌であるホンシメジについては、菌根や子実体の生育・取得が困難であったが、次世代シーケンサーで解析できる状況に改善した。
AM菌のゲノム情報をもとに菌側のRNA-seq解析を行い、共生成立時と胞子形成時に発現変動する遺伝子を特定する。候補遺伝子についてはhost-induced gene silencing法を用いて 菌根形成における機能を解析する。また、共生菌の進化を解明するため、より起源の古いEndogeone属のゲノム解読を継続して行うとともに、高等菌類であるホンシメジのゲノム解読も行う。植物側の候補遺伝子につい ては、逆遺伝学的手法により機能解析を行う。茎頂メリステムの維持及び制御ではWUSがCLE遺伝子の転写を直接誘導することが明らかにされている。根粒数を制御するCLE遺伝子 の発現を誘導するミヤコグサの転写因子を特定する。根粒菌の窒素固定活性を戦略とした進化モデルを構築し、適応ダイナミクスによる理論的解析および数値シミュレ ーションによる解析を引き続き行う。共生関係の進化条件、さらには窒素固定をしない「ぼったくり菌」の出現条件や根粒の数の制御等を検討することにより、マメ科植物-根粒菌の共生の進化の理解を目指す。
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