がんの放射線治療では、DNA二本鎖切断(DSB)の誘導ががん細胞死誘導の主要因となる。放射線により生じたDSBは非相同末端結合修復経路(NHEJ)によって主に修復されるため、当該経路の阻害はがん放射線治療の増感のための手段となりうる。DSB修復において、DSB部位のヒストン蛋白質の修飾やクロマチンの再構成によるクロマチン弛緩がDNA修復蛋白質群の集積・機能に必要であることが示唆されているが、その実態は明らかでない。そこで我々は、ヒトがん細胞の染色体上に生じたDSBに対するNHEJのアッセイ系を構築し、NHEJに関わるヒストン修飾・クロマチン再構成因子の同定を進めた。その結果、ヒストンアセチル化酵素(HAT : histone acetyltransferase)をコードするCBP及びp300遺伝子のノックダウン、CBP及びp300蛋白質を含むHATに対する阻害剤がNHEJを阻害することを見出した。さらに、クロマチン免疫沈降実験により、CBP/p300蛋白質はDSB部位に集積すること、DSB部位で起こるヒストンH3およびH4のアセチル化がCBP/p300遺伝子のノックダウンにより減弱することが明らかにされた。また、CBP/p300遺伝子のノックダウンにより、主要なNHEJ因子であるKU80蛋白質、及びDSB修復促進作用が知られるSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の触媒サブユニットであるBRM蛋白質のDSB部位への集積が減弱することが見出された。この結果は、CBP/p300蛋白質がDSB部位のヒストンH3/H4蛋白質アセチル化酵素として機能し、SWI/SNFクロマチンリモデリング因子と協力することにより、NHEJを促していることを示唆する。また、ACF1クロマチンリモデリング因子のNHEJへの関与についても明らかにした。siRNAによるCBP/p300、ACF1蛋白質の機能阻害はがん細胞の放射線感受性を増加させた。この結果は、ヒストン修飾・クロマチン再構成蛋白質群が、がんの放射線治療における新たな増感標的であることを示唆する。
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