研究領域 | ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構 |
研究課題/領域番号 |
22131006
|
研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
河野 隆志 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (80280783)
|
研究分担者 |
荻原 秀明 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (40568953)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | がん / クロマチンリモデリング / ヒストンアセチル化 / がん治療 / DNA切断修復 |
研究実績の概要 |
1. DNA切断修復にかかわるクロマチンリモデリング分子の同定 独自に開発したヒトゲノムを切断しない制限酵素ISCEIの切断に基づく染色体NHEJアッセイ系を利用し、CBP・p300によるヒストンH3・H4タンパク質のアセチル化がSWI/SNF複合体のDNA切断部位への集積を促し、NHEJコア因子の集積を促すというNHEJの分子機構を明らかにした。また、CBP・p300は、別のDNA切断修復経路である相同組み換え(HR)修復も正に制御することを見出した。HR修復では、CBP・p300はH3・H4タンパク質のアセチル化だけでなく、BRCA1遺伝子やRAD51遺伝子のプロモーター領域のヒストンアセチル化を介した発現保持が役割を有することをみいだした。 2. がんの放射線治療の奏功性に関わるクロマチンリモデリング因子の同定 CBP・p300タンパク質の機能阻害は、がん細胞の放射線感受性を増加させることを明らかにした。マンゴスチンの根に含まれ、民間薬として用いられるCBP・p300アセチル化酵素に対する阻害物質garcinolは、クロマチン弛緩の阻害によるNHEJ阻害の活性を持つことを証明し、がん放射線治療の増感剤として有望であることを見出した。 3. 発がんに関わるクロマチンリモデリング遺伝子の解析 転写制御に関わるクロマチンリモデリング遺伝子BPTFの多型が日本人の肺腺がリスクに影響を与えることを明らかにした。この多型はBPTF遺伝子のイントロン領域に存在し、危険アレル保持者は、正常肺組織においてBPTF mRNA量が少ないことを見出し、BPTF遺伝子ががん抑制的に働くことを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NHEJアッセイ系の構築及び、NHEJを正に制御するがん関連遺伝子群の同定に成功しており、その阻害剤を用いた治療法探索への展開も成功している。よって、記載すべき問題点は生じておらず、研究は順調に進行していると判断する。今後は、これまでの成果をさらに発展させ、クロマチンリモデリング遺伝子群のゲノム異常の意義の検討及び、同遺伝子群を標的としたがん治療法の探索を行うことで、本研究成果の橋渡しを狙いたい。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究後期では、これまでに構築したアッセイ系やNHEJを正に制御するがん関連遺伝子群を対象に、クロマチンリモデリング遺伝子のDNA切断修復への関与、同遺伝子群のゲノム異常の意義の検討、同遺伝子群を標的としたがん治療法の探索を行う。具体的には以下のとおりである。 1. ヒトがん細胞におけるクロマチンリモデリング遺伝子異常の探索:高速シークエンサーを用いた、CBP, EP300, BRG1/SMARCA4, ARID1A遺伝子群の異常の検索を予定している。また、同遺伝子群の異常と病理・診療情報との関連を調べる。 2. がんで変異の見られるクロマチンリモデリング因子のDNA切断修復への関与の検討: LKB1等、さらなるがん関連遺伝子群のNHEJへの関与を調べる。 3.クロマチンリモデリング遺伝子を標的としたがん治療法の開発: CBP, p300ヒストンアセチル化酵素の阻害剤を用いた既存がん治療法の増感の影響を調べる。また、クロマチンリモデリング遺伝子異常を持つがん細胞を特異的に殺傷する合成致死治療法の開発に取り組む。3においては、クロマチンリモデリング遺伝子の転写・修復への関与に関する網羅的スクリーニングを進める安井研究代表者等と密接に連携を取ることで機能情報を積極的に取り入れ、遺伝子異常の意義の解明、効果の高い合成致死治療法を開発に取り組む。また、候補が多数となった際には、国内外のがんでの遺伝子変異頻度や効果・特異性を鑑み、優先順位をつけ対処する。本研究はがん細胞のゲノム異常蓄積の分子機構や新規分子標的治療法開発のための基盤情報を創出できると考える。
|