計画研究
孤発性ALSモデルマウスである運動ニューロン特異的Rpt3 KOマウスと同腹コントロールマウスのそれぞれ運動ニューロンのマイクロアレイによる比較解析の結果、発現が有意に変動する遺伝子として219遺伝子を抽出した。in situ hybridization・免疫染色による検証を行ったところ、Rpt3 CKOマウスではストレス応答分子であるXが増加していることが判明した。Xは遺伝性ニューロパチーの原因遺伝子であり、X欠損マウスは神経障害を引き起こすことから、Xの発現誘導は運動ニューロンに対して保護的に働いていることが予想された。また、常染色体優性遺伝性の家族性ALSの原因遺伝子TDP-43は細胞質ユビキチン化封入体のコアタンパク質であり、ALSはTDP-43の異常な構造変化を背景とした「蛋白質ミスフォールディング病」と「RNA代謝異常病」が基本的な分子病態と考えられている。我々はTDP43をユビキチン化するユビキチンリガーゼとして、CUL2-VHL複合体を同定した。ストレス条件下で露出するTDP-43の46番目のグルタミン酸が、VHLとの結合に必須であることも見出した。VHL-CUL2複合体はALS病理で特徴的に認められるTDP-43の35 kDa断片をユビキチン化しプロテアソームでの分解を促進していることを証明した。一方、培養細胞でVHLを過剰発現させるとTDP-43タンパク質分解はむしろ抑制された。さらにヒトALS脊髄で、VHLはオリゴデンドロサイトに豊富に発現し、ALSで認められるリン酸化TDP-43を含む封入体に局在することが判明した。以上より、VHL/CUL2は病原性TDP-43の新規分解酵素であること、VHLとCUL2の不均衡がTDP-43のクリアランスを阻害すること、さらにALSのオリゴデンドロサイトの機能不全に関与しうることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
運動ニューロン特異的Rpt3 KOマウスの運動ニューロンで特異的に発現変動している可能性のある遺伝子を多く同定できたのは、ALSのバイオマーカーや治療標的分子を今後見出していくうえで重要な成果である。また、TDP-43の不溶化および蓄積メカニズムとして分解障害が考えられる。今回TDP-43の分解酵素を同定できたことで、孤発性ALSの病態形成メカニズムおよび治療標的分子同定への足掛かりがつかめたといえる。
今後遺伝子XがヒトALS脊髄運動ニューロンでも発現亢進しているかどうか、また、運動ニューロンの生存促進効果があるかどうかを検討し、バイオマーカーまたは治療標的分子になりうるかどうかを明らかにする。CUL2-VHL複合体の調節機構の解明をすすめ、構造異常を起こしたTDP-43の分解を高める手段を見出すことを目標とする。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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