計画研究
本研究では、ショウジョウバエの体色と行動の両方に関与するドーパミン生合成系の遺伝子群をモデルケースとして、環境適応の副次的な影響として起こる性行動の不適合性により新規生殖的隔離が生じる分子機構を解明することを目的とする。また、より広範な視点からゲノムワイドなトランスクリプトームの遺伝子ネットワークにおける「ゲノム・遺伝子相関」の全体像を把握し、その重要性について定量的な議論を展開することを目標としている。H26年度は、本プロジェクトにより雇用している博士研究員が中心となって進めた、ドーパミン生合成系の遺伝子について定量PCR及びFluidigmと454 GS Junior による種内発現変異の定量を行い、解析を一通り終えることができた。また多面発現遺伝子のゲノム進化過程を解明するため、上記の遺伝子についてバイオインフォマティックス発現制御領域の集団遺伝学的解析も行った。この解析により、自然集団内の複雑なシス制御領域の分子多型の状態が浮き彫りとなり、その解析結果については、論文を執筆し投稿中である。また、性行動と遺伝子発現変異との関係を調べるため、体色の異なる系統間の求愛・交尾行動についてビデオカメラによる動画撮影を行い、解析を進めている。次世代シークエンサー(HiSeq2000)を用いたゲノムワイドなシス制御領域の転写制御の「ゲノム・遺伝子相関」解析については、対立遺伝子を区別したRNAseqによるトランスクリプトーム定量データを自然集団由来の18系統の成虫雌雄について取得できている。H26年度は、このデータを用いて雌雄に偏った発現をしている遺伝子に着目したシス制御領域の組織間発現制御の相関解析を行い、論文としてまとめ投稿した。現在再投稿準備中である。更に、シスとトランスの相互作用を定量化するためのサンプルの準備を終えており、来年度にデータ取得できる見込みである。
2: おおむね順調に進展している
本研究費により雇用している博士研究員が中心となって行っている、ショウジョウバエの体色に関わる複数の遺伝子に関する次世代シークエンサーを用いたアレル特異的遺伝子発現の定量解析による研究成果について論文にまとめ、投稿することができた。この研究ではPCRアンプリコンの定量を行うという新たな方法を用いているが、これがうまくいくことが分かったため、より多くのリードを得られるMiSeqによる規模を拡大した解析をすすめているがこちらの方もサンプルの取得まで終えることができた。研究室に所属している博士前期課程の大学院生1名と学部4年生1名が、ショウジョウバエ体色変異と関連するストレス耐性の研究と、生育温度によるドーパミン生合成系遺伝子の発現変化を定量PCRによって調べる研究を行い、それぞれ今後の発展につながる成果を上げることができた。本研究により取得したトランスクリプトームデータをもとにしたゲノムワイドな遺伝子発現解析について、研究分担者とともに解析を進めてきたが、こちらも論文としてまとめ、現在再投稿準備中である。
今後は、まず現在投稿中及び再投稿準備中の論文を出版する。MiSeqによるPCRアンプリコンのアレル特異的発現量の定量解析に関しては、新たな視点である生育温度に対する可塑的な遺伝子発現変化のシス制御機構に焦点をあてた考察を行うことを目指す。領域内北野班とFluidigmを利用したアレル特異的発現解析についての共同研究を行っており、H25年度にはイトヨのサンプルについて多数の遺伝子領域の配列データを出すことができた。今後は、解析をまとめ論文投稿をめざす。体色の異なる系統間の求愛・交尾行動の違いについては、動画の取得を行い、行動中の個体間の距離や動きの軌跡に着目した解析を進める。ゲノムワイドなシス制御領域の転写制御に関する解析では、シス-トランス間の相互作用を定量化するため、ライブラリ作成まで完了している自然集団由来のサンプルについて、外注によりRNA-seq データを取得し、その解析を進める。また、次年度は最終年となるため、ゲノムワイドなトランスクリプトームの遺伝子ネットワークにおける「ゲノム・遺伝子相関」の全体像について得られた知見をまとめ、その重要性について定量的議論を展開していく。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 2件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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