研究領域 | 生命素子による転写環境とエネルギー代謝のクロストーク制御 |
研究課題/領域番号 |
23116004
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
深水 昭吉 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60199172)
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研究分担者 |
高橋 秀和 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90450402)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 線虫 / S-adenosylmethionine / メチオニン代謝 / メチル化 / 転写 / LC-MS/MS / 栄養 |
研究実績の概要 |
代謝と転写環境をつなぐ生命素子の1つとして、メチル化修飾反応のメチル基供与体であるSAMに着目してきた。SAMは生体内において、必須アミノ酸であるメチオニンとATPからSAM合成酵素 (線虫ではSAMS [SAM synthetase]、哺乳類ではMAT [methionine adenosyltransferase]) を介して生成されることから、「食餌・栄養の摂取」や「メチオニン代謝サイクル」などがSAM量を規定する律速段階であると予想される。この可能性をモデル生物や培養細胞を用いて検証すると共に、SAM量の変動がメチル化修飾を介して転写環境、さらには個体機能に与える影響についても解析を進めてきた。
[I]生体における生命素子の分析技術の確立 SAMとメチル化の関係性に加え、脱メチル化反応の補酵素であるα-ケトグルタル酸にも着目し、その分析・定量方法の確立に成功した。この技術を用いて、生体サンプルのα-ケトグルタル酸量やアセチルCoA量等を測定することができた。 [II]メチオニン代謝回路の制御とその個体解析 メチオニン代謝回路を制御する遺伝子を同定する事ができた。ノックダウンやトランスジェニック等の手法を用いて、この遺伝子のメチオニン回路に及ぼす役割やそれが個体機能に与える影響について解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した「生体における生命素子の分析技術の確立」については、α-ケトグルタル酸やアセチルCoA量などの分析・定量実験法を確立することに成功しており、計画した研究内容はすでに完了した。現在は、生命素子を産生する代謝経路に分析範囲を拡大し、代謝物の分析・定量法の確立のために研究を進めている。具体的には、TCA回路やアミノ酸代謝経路の解析に着手しており、順調に進行している。また、確立してきた分析技術をもとに生体サンプルでの代謝物量を測定し、その結果から代謝酵素の発現量との相関を評価できるようになった。さらに、分析範囲の拡大により、遺伝子機能が代謝に与える影響について詳細な議論が可能となった。 また、「メチオニン代謝回路の制御とその個体解析」についても、メチオニン代謝回路を制御する遺伝子の同定に成功している。同定した遺伝子のノックダウン線虫において、メチオニン回路の代謝物が大きく変動する事を突き止めた。さらに研究を進めるために、トランスジェニック線虫を作製し、遺伝子発現部位や細胞内局在についても解析している。個体機能としては、成長速度、産卵数、寿命に焦点を絞り、ノックダウンや過剰発現によってそれらの表現型が変化する事を明らかにした。現在は、遺伝子が機能するカスケードを解明するため、エピスタシス解析や関連代謝物の定量分析を進めている。 上記した分析化学的解析と遺伝子の個体機能解析は、それぞれ順調に進展している。また相互に解析結果を還元する事で多角的な視点で研究を俯瞰できるようになり、今後の成果が期待できる。従って、実験計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本計画研究では、タンパク質の翻訳後修飾を介した転写環境の変化と、代謝に伴う修飾基供与体や補酵素の産生経路の有機的な連動を「転写代謝ネットワーク」と捉え直し、遺伝学・分子生物学的手法・分析化学技術を駆使してその分子基盤の解明を目指す。具体的には、以下の3点を中心に解析を行う。
[I]栄養・食餌がSAM生成量および個体機能に与える影響 [II]メチル化修飾による転写環境の構築と個体機能制御 [III]生体における生命素子の分析・定量
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