研究領域 | 炭素資源変換を革新するグリーン触媒科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04909
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 求 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (20243264)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 触媒 / ペプチド縮合 / アルカン / 脱水素 |
研究実績の概要 |
炭化水素やアルコールなどの安定で入手容易な炭素資源を活性化して付加価値の高い精緻な有機分子を制御して高い効率で合成する、グリーン有機分子・金属触媒の創製を目的とする。そのために、基質となる有機分子に偏在するsp3炭素-水素結合をラジカル的に切断する過程と生じるラジカル種を捕捉して有機金属種に変換する過程を、連関して促進する基礎概念を構築する。これにより、医農薬の基本骨格として重要なキラルポリオール類の短工程自在不斉合成法と、水素社会実現の基盤技術となりうるアルカンからの脱水素反応を開発することを目指す。 本年度は、チオカルボン酸の活性化を基軸として、N末端からC末端へ伸長するペプチド合成法の開発をおこなった。この方法は、従来のC末端からN末端への伸長法に比較して、保護基に由来する副生成物を低減できるメリットがある。一方で、ペプチド伸長時に主鎖C末端のアミノ酸残基のエピメリ化が懸念される。本年度の研究により、ペプチド伸長C末端のエピメリ化を最小限とできる添加剤の開発をおこない、これを用いて一般性の高いペプチド合成法を確立した。この方法は、逐次伸長とフラグメント伸長の双方に適用可能であり、9残基ペプチドDSIPの効率的な合成において実用性を実証した。 また、アルカンからの脱炭素を進行させる触媒システムを見い出し、世界初の室温・可視光照射条件におけるシクロヘキサンからの完全脱水素を達成した。この反応は、アルカンの強力な炭素ー水素結合を切断できるラジカル触媒を含む、4種類の触媒の協働によって進行した。また、フロー系を用いることで、本反応の効率を高めることができることを見い出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エネルギー効率の高いアルカンの完全脱水素反応は、水素社会の基盤となる科学技術であるが、アルカンの炭素ー水素結合が極めて安定であり、その実現は世界中で希求されているものの非常に困難である。今回、4成分から成る触媒システムを組み上げることによって、その実現の端緒となる反応を達成した。エネルギー関連反応に必要なスケールを考えると、高価な金属触媒が必要なことや反応速度が低いことなど、解決すべき課題はまだ多く存在するものの、少なくとも第一歩を踏み出した成果であると評価できる。 また、ペプチドは最近の中分子創薬の重要な母核であり、大量合成に適用可能なスケーラブルな合成法の開発は今後ますます重要性が高まって行くと予想できる。今回、その基軸となる独創的な反応を開発し、発表できたことは、極めて重要性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
アルカン脱水素反応の効率を最適化し、安価な触媒を用いてシクロヘキサンから1時間程度で完結する条件を見い出す。そのためには短寿命中間体を複数の触媒間で受け渡す工夫、すなわち本プロジェクトのタイトルである「ラジカルー有機金属交差過程の高度化」が必要である。リガンド設計による電子授受の効率化と同時に、空間的にも中間体を受け渡せるようなデザインを盛り込む。 1,3-ポリオール合成については、既に開発している銅触媒による不斉ダブルアルドール反応の生成物に対して、単純アルケンを基質として触媒制御でアリル基を導入する反応を開発する。ダブルアルドール体は6員環へミアセタールであり、これを動的に開環しながら、生じるアルデヒドに対しての不斉アリル化反応を確立する。生じるホモアリルアルコールをオゾン分解により炭素鎖伸長したヘミアセタールへと導き、これに対してアルケンを用いたアリル化を繰り返すことで、保護基を用いることなくアルケンから1,3-ポリオール構造を導く方法論を開発する。
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