研究領域 | 実験と観測で解き明かす中性子星の核物質 |
研究課題/領域番号 |
24105002
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
高橋 俊行 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (50281960)
|
研究分担者 |
仲澤 和馬 岐阜大学, 教育学部, 教授 (60198059)
佐藤 進 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (70302346)
|
研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
|
キーワード | ダブルΛハイパー核 / Ξ粒子 / Ξハイパー核 |
研究実績の概要 |
運転再開したJ-PARCハドロン実験施設にて、次のことを行った。1)ハイブリッドエマルジョン実験に向け、K-ビームの強度、純度及びその形状を測定して、必要な要求を満たしていることを確認した。2)エマルジョンと検出器系SSDの位置較正法として検討を進めてきたコリメートした細いビームスポットで荒い位置合わせの後、ビーム飛跡のパターンマッチングを行うことで数10µmの位置合わせができることを確認した。3)(K-,K+)反応によるΞハイパー核分光実験として、既存SKSスペクトロメータを用いてパイロットデータの収集を行った。その一環として、Ξ生成素過程反応の断面積とビーム強度を1.5-1.9 GeV/cの領域で測定し、ビーム強度、Ξの生成量から1.8 GeV/c付近が最適であることを確認した。4)潜像の蓄積量の違うエマルジョンサンプルを用意して、ビームの試験照射を行い、ビーム飛跡の認識効率と潜像蓄積量との関係を調べた。その結果、2016年度中に実験が実施できれば、その後の解析などに大きな悪影響がないことが確認できた。 これらのスタディを受け、エマルジョン実験の詳細な照射計画を立案し、2016年5月末からのビーム利用がスケジュールされた。KURAMA電磁石、スぺクロエメータ検出器などの設置作業を開始し、ビーム利用に向け、着々を作業は続いている。 ハイペロン崩壊スペクトロメータを用いたH粒子探索実験に関しては、開発を進めている検出器などの状況をTDR(Technical Design Report)にまとめ、J-PARC PACに提出し、様々なコメントを受けた。スペクトロメータの超伝導ヘルムホルツ電磁磁石およぼTPC検出器の読出し回路モジュール全数の製作が完了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
事故で停止していたJ-PARCハドロン実験施設の利用運転が再開し、エマルジョン実験をはじめとするダブルストレンジネス系実験実施に必要なビームライン性能の基礎データを取得できた。 取得したこれらのデータをもとにエマルジョン実験の詳細な計画を立案し、ビーム利用が2016年5月末から開始されることとなった。このビーム実験実施に向け、KURAMAスペクトロメータをはじめとする実験装置のインストール作業は順調に進んでいる。2016年5月末から始まるビーム利用では、用意したエマルジョンの約20%に照射が行われる。これらの一部の照射でもハイブリット法による解析では10を超えるダブルストレンジネス事象候補が発見され、そのうち2例程度は核種の完全な同定が期待される。 H粒子探索実験のステージ2採択に向け、TDRをまとめた。また、製作が遅れていたハイペロン崩壊スペクトロメータの超伝導ヘルムホルツ電磁石の製作、また、TPC検出器の読出し回路システムのハードウエアの製作が完了した。 当初計画とは異なっているが、SKSスペクトロメータを用いた(K-,K+)反応によるΞハイパー核分光のパイロット実験を行った。中程度のエネルギー分解能で統計精度も充分とは言えないが、この取得データの詳細な解析によって、ΞN相互作用に関する新しい情報が得られることが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
5月末からのJ-PARCでのビーム利用に向け、KURAMAスペクトロメータを完成させる。実験の最初にはKURAMAスペクトロメータの立ち上げ・性能確認を行う。スペクトロメータの性能確認の最後として、(K-,K+)反応でのΞ-粒子の生成スペクトルの確認を行い、エマルジョンへのビーム照射を行う。照射したエマルジョンは岐阜大にて現像し、これまで開発を進めてきた画像解析システムにて、画像解析を行い、KURAMAスペクトロメータのデータ解析と合わせたハイブリッド法によって、ダブルΛハイパー核、Ξハイパー核事象を探す。ハイブリッド法による解析の後には、スペクトロメータのデータを用いない全スキャン法による解析を行う予定である。夏以降のJ-PARCハドロン施設のビーム運転日程は決まっていないが、残りのエマルジョンへの照射実験を引き続き行う。 製作したヘルムホルツ電磁石の冷却系、モニター系の整備を進め、KEKつくばキャンパスにて冷却・励磁試験および磁場測定を行う。TPC検出器全体の磁場無し試験を東北大ELPHの陽電子ビームを用いて行う。その後、ヘルムホルツ電磁石内に設置して磁場中での試験を行い、ハイペロン崩壊スペクトロメータとして完成させる。これらの試験結果も取り入れ、TDRをアップデートして、H粒子探索実験のステージ2採択を目指す。
|