計画研究
1)今回測定例が非常に少ないPu-241に着目し,道路脇で採取した黒い物質の化学分離,α線スペクトルメトリー,液体シンチレーション法を併用して,12試料のPu-241の測定を実施した。その結果,原子炉コアーインベントリーのPu-241/Pu-239,240放射能比とも矛盾しないで90-100範囲の値を得ることができた。2)事故直後に採取された大気浮遊粒子状物質(SPM)中に含まれる長半減期放射性ヨウ素(I-129)を加速器質量分析法により定量した。同一試料中の放射性セシウム(Cs-137)の量を介して、短半減期放射性ヨウ素(I-131)の量を推定できることを確認した。3)粘土鉱物-有機物複合体に対するセシウムの吸着について調べ、有機物が粘土鉱物へのセシウム吸着を阻害することが分かった。このことをさらに調べるために、X線顕微鏡の開発と応用を進めた。また粘土鉱物への吸着に対して、RIPが高い場合にEXAFSから分かる内圏錯体の割合が高くなることが分かった。4)環境中のPu同位体および長半減期129Iを簡便かつ精度/確度よく測定可能にするため、トリプル四重極ICP-MSの最適化を行った。その結果、Pu測定で妨害となる238UH+の干渉をCO2ガスリアクションで最小化させ数十pptのPuを5桁高いU溶液中でも測定可能とした。また129I測定では127IH2+や127ID+の影響が無視できないことが分かった。5)樹木へのセシウムの吸収や転流メカニズムを解明するためには樹木中でのセシウムの化学状態を明らかにする必要がある。そこで、セシウムを吸着させたスギ樹皮試料のXAFS測定を行った。その結果、樹皮中のセシウムは水和イオンとして存在していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今回,粘土鉱物-有機物複合体に対するセシウムの吸着について調べ、有機物が粘土鉱物へのセシウム吸着を阻害すること,また粘土鉱物への吸着に対して、RIPが高い場合にEXAFSから分かる内圏錯体の割合が高くなることが分かったことは特筆すべきであ。また,大気エアロゾルの連続試料(SPM)について放射性ヨウ素(I-129)が測定で,事故当初のヨウ素I-131大気濃度の再現が可能であることが分かった。更に Pu同位体の中で,データの少ないPu-241が測定でき,同位体組成に関する有用な知見を得た。
[微弱放射能測定]に関して:1)原発周辺で採取した高放射能汚染環境試料について、超ウラン元素諸核種同位体の情報を提供してきた。今後は データの殆ど無いNp-237,僅かなPu-241の測定を継続すると共に,トリプル四重極ICP-MSを用いる環境Pu同位体および長半減期129Iの簡便かつ高精度の測定を検討する。また、大容量高マトリクス試料 (海水など) からの長半減期放射性セシウム (135Cs) の濃縮・精製および測定法の確立を目指す。2)事故直後のI-131の飛散状況の時空間分布の時系列データを得るために, Cs-137を測定た大気アロゾル連続採取試料(SPM)中のI-129を系統的に測定する。さらに,SPM試料中に補足されているI-129の存在状態を解明する。[移行挙動,存在形態]に関して:1)河川を通じての放射性Cs移行挙動を解明するため,新田川での河川調査,特に降雨時における放射能性Csの移行性を継続調査すると共に,土壌、河川懸濁粒子、沿岸域堆積物について、選択的抽出法により放射性Csの存在形態を調べる。2)河川から流入するセシウムを吸着した懸濁粒子が海洋に入った場合に、セシウムの脱着がどのように進むかを,特に表層海水中の有機物および海水中の高い塩濃度の影響について検討する。3)土壌から樹木への放射性核種移行に関して,樹木の主要構成物質であるセルロース、リグニン、ヘミロースなどへのセシウムの吸着構造をXAFS法により調べ,実際のスギ(針葉樹),コナラ(広葉樹)の実態を検討する。
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